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  メルマガ 「いいテク・ニュース」 雑記帳 2015年3月19日(Vol.128) 「蛙(かえる)」       ≫雑記帳トップへ



  「蛙(かえる)」

古池や蛙飛こむ水のおと(蛙=かわず)
松尾芭蕉(まつお ばしょう) (1644-1694)

痩蛙まけるな一茶是に有(痩蛙=やせがえる、是に有=これにあり)
小林一茶(こばやし いっさ) (1763-1828)

はどなたでもご存知の句ですね。
3月6日の啓蟄(けいちつ)から2週間。
冬ごもりしていた蛙も地中からはい出てくる季節です。
貝原益軒の『大和本草』によれば「かえる」の名は他の土地に移しても必ず元の所に帰るという性質
に由来していると記述されています。
日本において、蛙は棲息するのに好条件な水田や水辺が多かったことから日本人にとってとても身近
な存在でした。
音楽や絵画に蛙をモチーフにした作品が多くあります。
漫画のルーツ、鳥獣戯画には人間に擬せた蛙が描かれ、蛙を主人公にしたアニメ『ど根性ガエル』や
『ケロヨン』が人気を博しました。
また童謡には『かえるの合唱』や『おたまじゃくしはカエルの子』があります。
今回はそんな日本人にとって親しみ深い「蛙(かえる)」についてのおもしろ豆知識をお届けします。

◎蛙と諺(ことわざ)
 諺でも蛙がたくさん登場します。
 諺とは元来そうしたものなのでしょうが、あまり良いようには取り上げられていません。

 蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)・・・騒がしいばかりで役に立たないこと。

 井の中の蛙大海を知らず・・・知識、見聞が狭いことのたとえ。またそれにとらわれて広い世界が
 あることに気づかず、得意になっている人のこと。
 「されど空の高さを知る」と続ける場合もあり、意味が逆転します。元々は「されど空の高さを知
 る」はなく、日本で付け加えられました。

 蛙、オタマジャクシの時を忘れる・・・地位が高くなったり、以前、貧しかった人が金持ちになっ
 たりすると、昔の苦労をすっかり忘れて偉さぶったりすること。

 蛙の行列・・・蛙が立ち上がると目が後ろ向きになって前が見えない→向こう見ずの集団のこと。

 蛙の面に水・・・どんな目にあわされてもいっこうに気にせず、平気でいることのたとえ。

 蛙は口ゆえ蛇に呑まるる/蛙は口から呑まるる・・・蛙の口は大きい→大口を叩くのは災いのもと。

 蛙の目借り時(かわずのめかりどき)・・・これは俳句の季語にもなっています。暖かくなって睡魔
 に襲われる頃を指します。「めかる」とは「妻狩る」の意味で、蛙やその他の生物が相手を求めて
 鳴きたてたりすることをいい、それが目借りと書かれ、蛙に目を借りられ眠くなる意となりました。

◎ノーベル賞とカエル跳び
 ノーベル賞の受賞者はノーベル・レクチャーと呼ばれる記念講演を行い、受賞式後にスウェーデン
 王室および約1,300人のゲストとともに晩餐会に参加します。
 その後、受賞者はストックホルム大学やストックホルム経済大学などの学生有志団体が毎年持ち
 回りで行う秘密パーティーに参加しますが、ノーベル賞受賞者の中には、もう疲れたと帰る人も
 多い中、参加希望の受賞者と大学生たちが『カエルちゃん』というスウェーデン民謡に合わせて、
 さらなる躍進を願っていっせいに「カエル跳び」をするのが慣例となっています。
 昨年、ノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授が、この「カエル跳び」に挑戦し、
 朝まで秘密パーティーを楽しんだと一部報道が伝えています。(You Tubeで天野浩教授のカエル
 跳びが観られます。) 

◎英国王にカエル料理を提供
 大型のカエルは世界各地で食用にされます。
 肉は鶏肉のささみに似ていて、淡白で美味とのこと。
 ヨーロッパにおいてカエルを食することにおいてはフランス人が先駆的で、他の国から「カエル喰
 い」と揶揄を込めて呼ばれていました。
 現在でも英語でfrog eater はフランス人に対する蔑称になっていて、frogだけでフランス人を指す
 こともあるほどです。
 食用には腿が用いられることが多く、ソテーやパン粉焼で調理されます。
 現代フランス料理の祖といわれるオーギュスト・エスコフィンエは、若き日の英国王エドワード7世
 に自慢のカエル料理を提供し、賞賛を得ましたが、食材を問われて言葉につまり、「頭が三角にな
 る思い」(カエルの頭は三角だから)をしたと伝えられています。
 後年、エスコフィンエはロンドンの「カールトル・ホテル」で評伝となった冷製料理「妖精・オーロ
 ラ風」がカエル料理だったことを明かし、イギリス食通のあいだに騒動を巻き起こしました。

◎オタマジャクシ・カエルが空から
 ○オタマジャクシ
  2009年6月に石川県七尾市で「オタマジャクシが空から降ってきた」という現象が起き、騒動にな
  りました。
  この現象が確認された場所は、石川県七尾市中島市民センターの駐車場。
  2009年6月4日、駐車場で作業中の人がボトッという音を耳にし、音がした方を見てみると100匹以
  上のオタマジャクシが散乱していたという。
  この出来事を地元の新聞社が翌5日に報道すると、全国から問い合わせや取材が殺到し、この現象
  が起きた時に同市民センター内にいた水上和夫七尾市参事ら二人は「オタマジャクシ担当」に任命
  されたとのことです。
  水上参事は「鳥が吐いたんでしょう。田んぼの周りにオタマジャクシや小魚が落ちていることは昔
  からの光景」それほど驚くことではないと平然と語っています。
  また、日本鳥類保護連盟の担当者の解説によると、サギ類やウミネコなどは捕獲したオタマジャク
  シや小魚などを飛翔中に吐き出してしまうことがあるとのことです。
 ○カエル
  トム・クルーズ主演の映画「マグノリア」のラストでカエルが大量に降ってきますが、これは「モ
  ーゼの十戒」からきていて、昔々、ユダヤ人奴隷を解放しなかったエジプト王に対して、戒めとし
  てカエルを大量に降らせた逸話を表現しているようです。
  この物語に出てくる罪や後悔を背負った様々な登場人物に対しての戒めの意味と、また他の解釈だ
  とカエルは「変わる」「リセット」といった意味もあるようで、前向きな意味から人は変われるん
  だよということを示しているのでしょうか。

◎ガマの油売り
 ガマの油とは、江戸時代に傷薬として用いられていた軟膏で、筑波山名物として土産物として販売
 されるようになったワセリンなどを成分とする商品です。
 ガマの油売りは江戸時代に筑波山麓にある新治村永井の兵助が、筑波山の山頂で自らの10倍もある
 蝦蟇(がま)に諭されて故郷の「がまの油」を売り出すための口上を工夫し、江戸・浅草寺境内など
 で披露したのが始まりとされています。
 香具師(やし)は大抵、白袴に鉢巻、タスキ掛けのいでたちで、腰に刀を差し、膏薬が入った容器を
 手に持ち、そばに置いた台の上にひからびたガマガエルを乗せ、綱渡りなどの大道芸で客寄せをし
 た後、「さあさあお立ち会い、何にでもよく効く筑波山麓ガマの油だ。ガマはガマでも四六のガマ
 だよ」と霊山・筑波山(伊吹山とも)でしか捕獲できないとする「四六のガマ」(前脚の指が4本、後
 脚の指が6本)と呼ばれる霊力を持ったガマガエルから油をとる方法を語ります。
 四六のガマは己の容貌を今業平(在原業平のような美形、イケメン)だと信じていますが、周囲に鏡
 を張った箱に入れられ自らの醜悪さに驚き、脂汗を流し、この汗を集め、一定期日のあいだ煮つめ
 てできたものが「ガマの油」であると口上します。
 ガマの油は万能で、まず止血作用があることを示すために、刀を手に持つ。
 刀には仕掛けがしてあり、切っ先だけがよく切れるようになっている。
 その刀で半紙大の和紙を二つ折りにし、「一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚…
 …」と口上しながら、徐々に小さく切っていき、小さくなった紙片を紙吹雪のように吹き飛ばす。
 このように刀の切れ味を示したあと、切れない部分を使って腕を切ったふりをしながら、腕に血糊
 を線状に塗って切り傷に見せ、偽の切り傷にガマの油をつけて拭き取り、たちまち消してみせ、止
 血の効果を観客に示します。
 蝦蟇の油(がまのあぶら)は古典落語の演目の一つとなり、その口上は伝統芸能となっています。

◎蛙合戦(かわずかっせん、かえるかっせん)
 蛙は繁殖期に雌雄が水田や池などに多数集まり、産卵をしますが雄の方がかなり多いのが常で、
 雄同士がすさまじく争います。
 蛙の産卵は、雌が雄を背負った形で行われるので、交尾のように見えますが、雌が産んだ卵に雄
 が精液をかけるだけ。
 交尾のように見える姿は抱接と呼ばれ、雌の腹部を押える雄の前肢の力はなかなか強く、それが
 雌の産卵を助けることになりますが、それによって雌の腹部に傷ができたり、ときには産卵の消
 耗もあって雌が死んでしまうこともあるそうです。
 産卵は雄だけでなく、雌にとっても必死の戦争なのです。
 昔は各地に蛙合戦の名所があり、その時季になると見物の人々が集まりました。
 たとえば、一茶の故郷からそれ程遠くない長野県上高井郡小布施町の岩松院(がんしょういん)の
 裏の池では、今でも、春の花見の終わるころ、大人の手のひら大のアズマヒキガエルが数10匹集
 まって来て、5日間程度、蛙合戦が行われます。
 また、かつては東京八王子市の真覚寺(しんかくじ)には5〜6万匹も集まって1週間以上も蛙合戦が
 続くことがあったそうです。

◎大蝦蟇(おおがま)の奇談
 巨大なガマガエルのことを大蝦蟇と呼びますが、江戸時代の奇談集『絵本百物語』、『北越奇談』
 に登場します。
 ○絵本百物語
  『絵本百物語』によれば「周防の大蟆」(すおうのおおがま)と題され、周防の国の岩国山(現・
  岩国市)の山奥に棲む体長は約8尺(約2.4メートル)の大蝦蟇で、口から虹のような気を吐き、こ
  の気に触れた鳥や虫たちを口の中へ吸い込み、夏には蛇を食べたとあり、また人を襲ったとの
  説も残されています。
 ○北陸奇談
  越後の国村松藩(現・新潟県中蒲原郡村松町)で藤田という武士が河内谷の渓流で釣り場を探し
  ていたところ、山深くの淵のそばに突起だらけの3畳ほどの岩場を見つけ、絶好の釣り場と思い、
  その上でしばらく釣り糸を垂れていました。
  川向かいでも別の武士が釣りをしていましたが、その武士は急に帰り支度を始め、藤田に手真似
  で、「早く帰れ」と示して逃げ去りました。
  藤田も不安を感じ、釣り道具を片付けてその武士を追い理由を尋ねたところ「気づかなかったか?
  おまえが先ほどまで乗っていたものが、火のような赤い目玉を開き、口をあけてあくびをしたの
  だ」と恐れながら答えました。
  しばらくして、二人が元の場所に戻ってみると、藤田の乗っていた岩とおぼしき物は跡形もなく
  消え失せていました。
  あれは岩ではなく大蝦蟇で、突起はイボだったとのことです。
  葛飾北斎の画『北越奇談』「岩とおもひて怪物の頭に釣をたるゝ」に描かれています。

◎蛙(かえる)と俳句
 俳句の世界で蛙(かわず、かはず)は春の季語になります。
 田に水が張られるころ、雄が雌を求めてさかんに鳴き始め、その声はのどかさを誘います。
 有名な冒頭の芭蕉、一茶のほかにも数多く詠まれています。
  
 蘆の葉に乗るやかへるの舟軍(蘆=あし、舟軍=ふないくさ)
 松永貞徳(まつなが ていとく) (1571-1654)

 恋歌よむ蛙と見えて痩せ給ふ(痩せ=やせ)
 岡野知十(おかの ちじゅう) (1860-1932)

 遠蛙星の空より聞えけり(遠蛙=とおかわず)
 鈴木花蓑(すずき はなみの) (1881-1942)

 蛙の目越えて漣又さざなみ(漣=さざなみ)
 川端茅舎(かわばた ぼうしゃ) (1897-1941)

 昼蛙どの畦のどこ曲らうか(畦=あぜ)
 石川桂郎(いしかわ けいろう) (1909-1975)

私も詠んでみました。

 のどふくれ輪唱するや夕蛙(夕蛙=ゆうかわず)
 白井芳雄
      
今回は「蛙(かえる、かわず、カエル)」についてのいろいろをお届けしました。

全体を通じての参考文献:三省堂編修所編 1987年
            『実用ことわざ 慣用句辞典』 (三省堂)

            飯田龍太・稲畑汀子・金子兜太・沢木欣一監修
                       『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』(講談社)

            21世紀研究会編
            『食の世界地図』(文藝春秋)P235

            今泉有美子 2009年6月28日
            『“空からオタマジャクシ”鳥が吐いた?』(産経新聞) 

      参考サイト:フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)

            標準和名一覧(日本爬虫両生類学会)

最後までお読みいただきありがとうございました。
   
                   (株)技術情報センター メルマガ担当 白井芳雄

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