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  メルマガ 「いいテク・ニュース」 雑記帳 2017年1月25日(Vol.139)「鯨」                 ≫雑記帳トップへ



   「鯨」


1月10日(本えびす)および、その前後の9日(宵えびす)、11日(残り福)に行われた「十日戎」(とうか
えびす)。
別名「えべっさん」。
東日本ではそれほど知名度は高くありませんが、関西では「今宮戎」、「西宮戎」、「京都ゑびす
神社」などで商売繁盛、家内安全などを願い多くの人々がお賽銭を奉納しました。
その中には10,000円札や5,000円札、外国紙幣、また語呂合わせで「1129」(イイフク)や「2951」(
フクコイ)といった小切手も。
その信仰の対象となっている「えびす」(戎)、(恵比寿)さまは七福神の一人で遠くの海からやって
きて、人々を幸福にする神様で、「海の神」、「漁業の神」、「商売繁盛の神」、えびす顔で描写
される「福神」として親しまれています。
また、海からたどりついた鯨をはじめ、漂着物を信仰した「寄り神」とも言われます。
そんなことから昔の人々は「鯨」のことを「えびす」と呼んでいました。
「一匹の鯨に七浦賑わう」ということわざがあるように一頭の鯨のもたらす経済効果は大きいもの
でした。
また、昔から鯨には「魚の群れを見つけ出す」能力があったため、神様とも崇められ、現在でも神
秘的な側面も多く持っています。
今回はそんな「鯨」についての豆知識をお届けします。


1.鯨の名前と漢字の由来
  鯨の語源には諸説あります。
  その中で有力と考えられている1説をあげておきます。
  鯨の皮膚の色は黒色で、その中の脂肪の部分は白色が多く、また、鯨の背は黒で腹は白であ
  ることから古語で黒を表す「ク」と白を表す「シラ」をつなげて言い「クシラ」となり、そ
  の後「シ」は「ヂ」に転じ「クヂラ」になったとされています。
  また、漢字の鯨は昔は鯨は哺乳類ではなく「魚」と思われていて、大きさが普通ではなかっ
  たことから、京(兆の万倍、10の16乗)のような計り知れないほど大きな魚ということで「魚」
  と「京」をあわせて「鯨」になったという説が有力です。

2.鯨のことわざ

  ・鯨の一喉焼き(くじらのいっこうやき)
   <一喉焼きは尾頭付きの焼き物のこと。絶対に見られない、有り得ないことのたとえ。>

  ・鯨に鯱(くじらにしゃち)
   <しつこく付きまとうこと。または付きまとって相手に被害を与えること。現在の「スト
    ーカー」と同じ意味。>

  ・鯨の喧嘩に海老の背が裂ける(くじらのけんかにえびのせがさける)
   <強者同士の争いで、力の弱い者が巻き込まれ被害を受けること。>

  ・鰯のたとえに鯨(いわしのたとえにくじら)
   <小さなことを説明するのに、大きな例をあげること。不適切な説明のこと。>

  ・鯨の子獲れて賑わう三里半(くじらのことれてにぎわうみさとはん)
   <一頭の鯨は七つの集落を潤おすとのことわざがあり、子鯨はその半分の集落を賑わすこ
    とができるということ。>

  ・長鯨の百川吸うが如し(ちょうげいのひゃくせんすうがごとし)
   <大きな鯨が多くの川を飲み干すように酒をぐいぐい飲む大酒飲みのこと。詩聖と呼ばれ
    た杜甫の「飲中八仙歌」に出てくる言葉。>

  ・丸一本伽羅と鯨は買いにくい(まるいっぽんきゃらとくじらはかいにくい)
   <高額な香木である伽羅やすごく大きい鯨は一本、一頭では買えないということ。「大名
    も切り売りを買う塩鯨」の古川柳もあります。>

3.鯨が魚類とは異なることを最初に記述したのは、「西洋最大の哲学者」の一人、アリストテ
  レス(紀元前384-322)である。
  鯨が海に棲む哺乳動物であることは、小学生でも知っていますが、昔の人々は魚の一種だと
  考えていました。
  哲学者であり、生物学および医学の父と言われたアリストテレス。
  彼はイルカの血液が温かく、肺があり、卵生ではなく胎生で、母乳で子供を育てることを指
  摘しています。
  しかし、海に棲む鯨が哺乳類として分類されたのは、約2,000年後のスウェーデンの学者カー
  ル・フォン・リンネ(1707-1778)らの提唱によります。

4.鯨でもっとも大型のシロナガスクジラは体長30m、推定体重150t〜200tに達する地上最大の生
  物。
  鯨には全世界で約80種があり、鯱(シャチ)や海豚(イルカ)も含まれています。
  その中で最大、最重のシロナガスクジラは、N700系新幹線の先頭車両の長さ(27.4m)と同じく
  らいで、体重は直接計測した記録はありませんが、150t〜200tに達するであろうと推定され
  ています。 
  重量から見れば、地上最大の生物であった恐竜、セイスモサウルス(推定体長33m、体重40t前
  後)を軽く越え、文字通り史上最大の生物と言えます。
  地上で大型化した恐竜が、その体重を支えるために頑強な骨格を必要としたのに対し、鯨は
  水中の浮力に支えられ、自分の体を重力と戦わせる必要がありませんでした。
  体重の増加を気にすることなく、速く泳ぐためだけに強靭な筋肉を発達させ、体温を維持し
  てエネルギーを蓄える脂肪を増やすことができたのです。

5.シロナガスクジラは数1,000km離れた仲間とコミュニケーションをとることができる。
  シロナガスクジラは体が大きいだけではありません。
  彼らは「うなり声」と呼ばれる1〜30秒続く17ヘルツという極低周波の声を出します。
  これほどの低い音になると水中での吸収減衰がきわめて低いため、理論上は数1,000kmにおよ
  ぶ長距離の伝播が可能となります。
  彼らは体の大きさのみならず、世界最大の声を出す生物とも言えます。
  この途方もない「うなり声」で実際に遠く離れた個体間でコミュニケーションをとっている
  かどうかはまだ証明されていませんが、広大な海の中で彼女を探したり、遠く離れた餌場の
  情報を伝えたりしている可能性はあります。
  彼女を求めて発した恋の歌に数1,000kmの彼方から返事が返ってくるのだとすれば、何ともロ
  マンチックな話です。

6.24時間以上歌い続けるザトウクジラ。
  世界でもっとも著名な科学雑誌『Nature』の1969年10月号に「歌う鯨」という小さな記事が
  掲載されました。
  その年の国際動物行動学会でアメリカの科学者ロジャー・ペイン(Roger Payne)が発表した
  研究報告を解説したその記事は、ザトウクジラが複雑な旋律の「歌」をうたってコミュニケ
  ーションをはかり、その声は数100kmも離れた海にいる仲間にまで届く可能性があることが記
  載されています。
  ペインの研究は1971年に『Nature』と並ぶ科学誌『Science』に論文として掲載され、ザトウ
  クジラの歌は世界で一躍有名になりました。
  歌をうたうのは繁殖期の雄で、彼らの歌は「ユニット」と呼ばれる決まったパターンの鳴き
  声の繰り返しによる「フレーズ」によって構成され、フレーズが反復されて「主題」を形づ
  くり、フレーズが変わると新しい主題が始まります。
  歌には2〜9の主題が含まれていて、長いもので約30分続きますが、歌は休止することなく反
  復されるので、長い時には24時間以上歌い続けることもあります。

7.マッコウクジラは3,000mも潜水できる。
  哺乳類は肺で呼吸するので、深海まで行けるものはなかなかいません。
  しかし、マッコウクジラはその生涯の3分の2は深海で過ごし、軽く2,000mは潜れ、集団で狩
  りをし、光の届かない深海では反響定位(エコーロケーション)を用い、家族同士の会話にも
  音を利用していると考えられています。
  彼らは筋肉中にあって、酸素分子を代謝に必要な時まで貯蔵する色素タンパク質であるミオ
  グロビン(Myoglobin)を大量に保有し、大量の酸素を蓄えることができます。
  このため、1時間以上潜っていられることが可能で、肺を空にしても深海の圧力を受けないこ
  とも明らかになっています。
  深海域での原子力潜水艦との衝突事故や、海底ケーブルに引っかかって溺死したと見られる
  死骸の発見などが3,000mも潜水できることを裏づけています。

8.ホッキョククジラは寿命が100年以上で200年のものもいる。
  ホッキョククジラは泳ぎが遅く、死亡した後も水面に浮いているので捕獲に適し、脂肪を含
  む肉・鯨油などを目当てに捕鯨の対象とされ、アラスカなどの先住民は古くから捕獲を行っ
  てきました。
  1800年代半ばに商業捕鯨が開始され、その後20年間でホッキョククジラの60%以上が捕獲され
  、個体数が激減し、大規模商業捕鯨は現在中断しています。
  しかし、原住民には生存捕鯨枠が与えられています。
  繁殖活動は10-15歳程になったころから行なわれ、雌は3-4年に一度、13-14ヶ月間の妊娠期間
  の後に出産します。
  その寿命は、かつては他のクジラと同程度の60〜70年と考えられていましたが、最近の詳細
  な研究によると150-200年程度生きているとの報告があります。
  また、別の報告によると90歳の雌がなおも繁殖可能であるとされますが、その寿命の長さか
  ら、雌は更年期障害に陥ると考えられています。

9.鯨と俳句
  鯨は日本近海には冬季に餌を追って回遊してきます。
  また、冬には番(つがい)となり活発に動きます。
  そのようなことから鯨は冬の季語となったようです。
  ここでは年代順に「鯨」を詠んだ句を選んでみました。

  鯨突く日や七浦に帰り花
  横井也有(よこい やゆう) (1702-1783)


  既得し鯨や迯て月ひとり(既=すでに)(迯て=にげて)
  与謝蕪村(よさ ぶそん) (1716-1784)


  汐曇り鯨の妻のなく夜かな
  大島蓼太(おおしま りょうた) (1718-1787)


  暁や鯨の吼ゆる霜の海(吼ゆる=ほゆる)
  加藤暁台(かとう きょうたい) (1732-1792)


  曳き上げし鯨の上に五六人(曳き=ひき)
  内藤鳴雪(ないとう めいせつ) (1847-1926)


  凩に鯨潮吹く平戸かな(凩=こがらし)
  夏目漱石(なつめ そうせき) (1867-1916)


  よき人の夢の中ゆく鯨かな
  長谷川櫂(はせがわ かい) (1954-)

私も詠んでみました。

  熊野灘入り日に汐を吹く鯨
  白井芳雄(1947-)


今回は「鯨」についてのいろいろをお届けしました。

全体を通じての参考文献、出典: 石川 創
               『クジラは海の資源か神獣か』((株)NHK出版)
                ISBN978-4-14-091172-3 C1345

                森田勝昭
               『鯨と捕鯨の文化史』 (一般財団法人 名古屋大学出版会)
                ISBN4-8158-0237-8 C3039

                小松正之
                          『日本の鯨食文化』((株)祥伝社)
                ISBN978-4-396-11233-2 C0295

                小泉武夫
                          『鯨は国を助く』((株)小学館)
                ISBN978-4-09-387897-5 C0095

                飯田龍太・稲畑汀子・金子兜太・沢木欣一監修
               『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』((株)講談社)
                ISBN978-4-06-128972-7

               『角川俳句大歳時記 冬』((株)角川学芸出版)
                ISBN4-04-621034-6 C0392

                           白井明大・有賀一広
                          『日本の七十二候を楽しむ−旧暦のある暮らし−』(東邦出版(株))
                ISBN978-4-8094-1011-6 C0076             
  
           参考サイト:フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)

                故事ことわざ辞典
                (http://kotowaza-allguide.com/)



最後までお読みいただきありがとうございました。
   
                   (株)技術情報センター メルマガ担当 白井芳雄

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