医療、食糧、環境あるいはエネルギーなど、現代の抱える問題の解決に、ナノバイオテクノロジーの発展が期待されている。
ゲノム解析の終わった現在、遺伝子自体の検査、診断、解析がすすみ、これから生み出されるプロテオームもタンパク質試薬、創薬の可能性から、高い注目が集まっている。
一方、半導体ナノテクノロジーの分野からは超精密微細加工技術が提供され、バイオ分子の分離、分析が微量で行えるようになってきた。
タンパク質、DNAなどの生命の起源にかかわるバイオ分子をナノオーダーで扱うこれらの技術の複合化は、これからのバイオ関連分野に革命をもたらすであろう。
まさに、ナノバイオテクノロジー時代である。
一方で、テクノロジーをエンジニアリングへと変換するためのツールを考えてみると、まだまだこれに追いついていない状況が見て取れる。
バイオ分子を安全に、安定に、またその特徴である生物学的特異性を維持したまま、人工系に取り込んでこそ、社会に貢献できるバイオエンジニアリングが確立される。
バイオ系と人工系の接触界面での反応を制御することが、鍵となることは間違いない事実である。
これを考えると、基盤となるマテリアルについての知識が極めて重要となる。
例えば、シリコン、ガラスやプラスチックなど、基盤となる優れた材料はあるものの、バイオ分子の吸着がゼロである材料は存在しない。
これは、ナノオーダーのバイオエンジニアリングを研究、開発する際には大きな障害になっている。
また、プロテオミクスにて生み出される有用タンパク質を、安定化し、溶解性を高めるポリマーマテリアルも必要であろう。
これらのマテリアルを“ナノバイオエンジニアリングマテリアル”として位置づけ、既存の基盤材料、バルク材料とは全く異なる考え方、設計論で創製しなければならない。
ナノバイオエンジニアリングの領域を戦略的に研究開発するためには、マテリアルを持つことが不可欠である。
国際的にも、我が国のマテリアル研究はトップであることは周知のことである。
バイオ研究では我が国は残念ながら世界に遅れを取り、多くの技術が欧米で企業化された。
しかし、ここで我が国の得意とするマテリアル研究の成果を投入し、ナノバイオエンジニアリング戦略を展開すれば、十分に世界の頂点に立つことができ、先導できることは間違いない。
知の集積、融合を図るために、まず関連する分野のみならず周辺分野の方々が、ナノバイオエンジニアリングマテリアルに対して共通認識することが大切であると考えた。
本書は、このような観点から、バイオ系と人工系との理想的界面であるバイオインターフェイス、バイオ分子の超微量を実現するナノバイオプロセッシング、
バイオ分子の特性を高めるバイオコンジュゲーション、先端バイオデバイスを創製するバイオマトリックスの4領域で、
現在の我が国における最先端バイオマテリアルの研究者を著者として選択し、その研究内容について解説いただいたものである。
今後のナノバイオエンジニアリングでイニシアティブを取るためにも、是非、本書の内容をご理解いただき、研究開発の多くのヒントを得ていただきたいと切望する。
(本書まえがきより) 石原一彦
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石原一彦 | 東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 教授 |
岩崎泰彦 | 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 助教授 |
中山泰秀 | 国立循環器病センター研究所 生体工学部 室長 |
芹澤 武 | 東京大学 先端科学技術研究センター 助教授 |
古賀智之 | 九州大学 大学院工学府 物質創造工学専攻 博士課程 |
高原 淳 | 九州大学 先導物質化学研究所 教授 |
大塚英典 | 物質・材料研究機構 生体材料研究センター人工臓器材料グループ 主任研究員 |
長崎幸夫 | 東京理科大学 基礎工学部材料工学科 教授 |
片岡一則 | 東京大学 大学院工学研究科 マテリアル工学専攻 教授 |
藤本啓二 | 慶応義塾大学 大学院理工学研究科 基礎理工学専攻 助教授 |
田中 賢 | 北海道大学 電子科学研究所 分子認識素子研究分野 助手 |
下村政嗣 | 北海道大学 電子科学研究所 附属ナノテクノロジー研究センター 教授 |
古薗 勉 | 国立循環器病センター研究所 生体工学部 室長 |
岸田晶夫 | 国立循環器病センター研究所 生体工学部 部長 |
田中順三 | 物質・材料研究機構 生体材料研究センター センター長 |
源明 誠 | 富山大学 工学部物質生命システム工学科 助手 |
北野博巳 | 富山大学 工学部物質生命システム工学科 教授 |
中尾愛子 | 理化学研究所 先端技術開発支援センター ビームアプリケーションチーム 副チームリーダー |
片桐裕司 | (株)AIバイオチップス 代表取締役 |
沖 明男 | 物質・材料研究機構 生体材料研究センター 産学連携チーム 博士研究員 |
小川洋輝 | 科学技術振興機構 研究員 |
堀池靖浩 | 神奈川科学技術アカデミー 光科学重点研究室マイクロ化学グループ 研究室長 |
佐藤記一 | 東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 助手 |
北森武彦 | 東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻 教授 |
黒澤 茂 | 産業技術総合研究所 環境管理研究部門 計測技術グループ 主任研究員 |
朴 鍾元 | 産業技術総合研究所 環境管理研究部門 計測技術グループ |
愛澤秀信 | 産業技術総合研究所 環境管理研究部門 計測技術グループ;NEDO フェロー |
高井まどか | 東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 講師 |
金野智浩 | 神奈川科学技術アカデミー 再生医療バイオリアクタープロジェクト 研究員 |
大矢裕一 | 関西大学 工学部応用化学科 助教授 |
宮田隆志 | 関西大学 工学部教養化学 助教授 |
佐藤香枝 | 理化学研究所 バイオ工学研究室 基礎科学特別研究員 |
前田瑞夫 | 理化学研究所 バイオ工学研究室 主任研究員 |
原田敦史 | 大阪府立大学 大学院工学研究科 物質系専攻 機能物質科学分野 講師 |
坂口浩二 | 日本油脂(株) DDS事業開発部 修飾剤グループ 主査 |
北野 茂 | 日本油脂(株) DDS事業開発部 修飾剤グループ 主査 |
丸山 厚 | 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 助教授 |
秋吉一成 | 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 教授 |
澤田晋一 | 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 研究員 |
由井伸彦 | 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 機能科学専攻 教授 |
石井武彦 | 東京理科大学 基礎工学部材料工学科 |
菊池明彦 | 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 助教授 |
小川 涼 | 東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 博士課程 |
樋口亜紺 | 成蹊大学 工学部応用化学科 バイオ・医療工学研究室 教授 |
吉田 亮 | 東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 助教授 |
青柳隆夫 | 鹿児島大学 大学院理工学研究科 ナノ構造先端材料工学専攻 教授 |
渡邉順司 | 東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 助手 |
白石浩平 | 近畿大学 工学部生物化学工学科 助教授 |
杉山一男 | 近畿大学 工学部生物化学工学科 教授 |
川上浩良 | 東京都立大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 助教授 |
大谷 亨 | 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助手 |
木村 祐 | 京都大学 再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 博士課程 |
田畑泰彦 | 京都大学 再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 教授 |