宇宙空間から素粒子まで、私たちの世界のどんなものでも「かたち」をイメージすることは、その本質を理解することと密接に結びついている。また、さまざまな「かたち」と「はたらき」との思いがけない関係を芸術家の天才的な直感は視覚化している。サルバドール・ダリの代表作『記憶の固執(柔らかい時計)』は、常識に反する変形可能な(トポロジー的)世界を柔らかい時計で象徴し、直感の表層をはがして視えてくる「別の真実」のイメージを喚起している。
 本書は、「かたち」をキーワードとしてマテリアルデザインを新しい視点から展望するユニークな企画である。「かたち」というコンセプトを、先入観をなしに見つめなおすサブテーマとして、「対称性」、「トポロジー」、「グラフ」、および「フラクタル」、を取り上げ、数学・幾何学を専門とする執筆者にもご参加いただいた。抽象化によって事象の本質を顕在化させる数学・幾何学のアプローチと、現実の空間で目に見える(ように直感される)マテリアルを取り扱う材料科学の交流の契機となることを期待している。
                               (手塚育志 序論 「かたち」からはじまるマテリアルデザイン より抜粋)
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| 手塚育志 | 東京工業大学大学院理工学研究科 教授 | 
| 小島定吉 | 東京工業大学大学院情報理工学研究科 教授 | 
| 有賀克彦 | (独)物質・材料研究機構WPI国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主任研究者/超分子グループ ディレクター | 
| 砂田利一 | 明治大学理工学部数学科 教授/明治大学先端数理科学インスティテュート 教授 | 
| 谷村省吾 | 京都大学大学院情報学研究科 准教授 | 
| 小松和志 | 高知大学自然科学系理学部門 准教授 | 
| 枝川圭一 | 東京大学生産技術研究所 准教授 | 
| 初貝安弘 | 筑波大学大学院数理物質科学研究科 教授 | 
| 山本潤 | 京都大学大学院理学研究科 教授 | 
| 田所誠 | 東京理科大学理学部化学科 教授 | 
| 寺西利治 | 筑波大学大学院数理物質科学研究科 教授 | 
| 河内明夫 | 大阪市立大学大学院理学研究科 教授 | 
| 津留崎恭一 | 神奈川県産業技術センター化学技術部 主任研究員 | 
| 出口哲生 | お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科 教授 | 
| 菊池裕嗣 | 九州大学先導物質化学研究所 教授 | 
| 長崎生光 | 京都府立医科大学大学院医学研究科 教授 | 
| 尾池秀章 | 東京農工大学大学院共生科学技術研究院 准教授 | 
| 高田十志和 | 東京工業大学大学院理工学研究科 教授 | 
| 中薗和子 | 東京工業大学大学院理工学研究科/東京工業大学グローバルCOE 特任助教 | 
| 尾松孝茂 | 千葉大学大学院融合科学研究科 教授/(独)科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ「光の創成・操作と展開」 研究員 | 
| 森田隆二 | 北海道大学大学院工学研究科 教授 | 
| 山中雅則 | 日本大学理工学部物理学科 講師 | 
| 細矢治夫 | お茶の水女子大学名誉教授 | 
| 岡田晋 | 筑波大学計算科学研究センター 准教授 | 
| 松本正和 | 名古屋大学物質科学国際研究センター 助教 | 
| 輪湖博 | 早稲田大学社会科学部 教授 | 
| 陰山洋 | 京都大学大学院理学研究科 准教授 | 
| 森孝雄 | (独)物質・材料研究機構WPI国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主幹研究員 | 
| 尾上順 | 東京工業大学原子炉工学研究所 准教授 | 
| 松下貢 | 中央大学理工学部物理学科 教授 | 
| 辻井薫 | 元 北海道大学電子科学研究所附属ナノテクノロジー研究センター 教授 | 
| 外山利彦 | 大阪大学大学院基礎工学研究科 助教 | 
| 剣持貴弘 | 同志社大学生命医科学部医工学科 准教授 | 
| 武田三男 | 信州大学理学部物理科学科 教授/理学部長 | 
| 宮丸文章 | 信州大学理学部物理科学科 助教 | 
| 齊藤祐 | 信州大学大学院工学研究科 修士課程 | 
| 元池N.育子 | (独)科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ「生命現象の革新モデルと展開」 研究者/京都大学物質−細胞統合システム拠点 特任研究員 | 
| 浅井哲也 | 北海道大学大学院情報科学研究科 准教授 | 
| 中西尚志 | (独)物質・材料研究機構高分子グループ 主任研究員/Max Planck Institute of Colloids and Interfaces Department of Interfaces MPI-NIMS International Joint Laboratory Group Leader/(独)科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ「構造制御と機能」 研究員 | 
| 村田智 | 東京工業大学大学院総合理工学研究科 准教授 | 
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| 序論 「かたち」からはじまるマテリアルデザイン | 
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| 1 | はじめに | 
| 2 | 「かたち」から視る高分子:高分子の分類とトポロジー | 
| 3 | 高分子の「かたち」の相互関係(トポロジー異性) | 
| 4 | おわりに | 
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| 第1編 研究動向と今後の取り組み | 
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| 第1章 | 幾何学の研究動向と他分野へのインパクト | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 幾何学⊃トポロジー | 
| 3 | 他分野への浸透 | 
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| 第2章 | 独立行政法人物質・材料研究機構におけるトポロジーデザイニング | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 原子・分子レベルのトポロジー | 
| 3 | 特異なトポロジーのナノ・マイクロ構造 | 
| 4 | トポロジーが生かされたバルク材料 | 
| 5 | おわりに | 
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| 第2編 対称性からはじまる | 
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| 第1章 | 対称性の幾何学 | 
| 1 | 序 | 
| 2 | 対称性と群 | 
| 3 | グラフの対称性 | 
| 4 | ダイヤモンド・ツイン | 
| 5 | 結晶の最大対称性と最小原理 | 
| 6 | 結語 | 
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| 第2章 | 対称性の物質・材料研究への応用可能性 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 結晶の対称性 | 
| 3 | 完全結晶から外れた物質の対称性 | 
| 4 | 物理法則の対称性 | 
| 5 | 群の表現 | 
| 6 | 線形応答とキュリーの原理 | 
| 7 | 対称性の自発的破れ | 
| 8 | 物質と生命 | 
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| 第3章 | 対称性の幾何学の物質・材料研究への導入事例 | 
| 第1節 | 解析・モデリングへの適用事例 | 
| 1 | 準結晶構造の数理モデルの構築 | 
| 1 | 準結晶構造の数理モデル | 
| 2 | 準周期タイリングの構成法 | 
| 3 | 準結晶構造から得られるフラクタル | 
| 2 | フォトニック・アモルファス・ダイヤモンド構造シミュレーション | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | フォトニック結晶におけるフォトニックバンド構造 | 
| 3 | PAD の構造とその秩序 | 
| 4 | PAD における3D ─ PBG 形成 | 
| 5 | おわりに | 
| 3 | 量子液体のトポロジカルな特徴付け | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 古典論から量子論へ | 
| 3 | 材料科学と物質相、対称性の破れ | 
| 4 | 量子相と量子相転移 | 
| 5 | 量子相の特徴と量子液体 | 
| 6 | トポロジカル絶縁体としての量子液体 | 
| 7 | トポロジカル絶縁体でのトポロジカルな秩序変数 | 
| 8 | 量子液体におけるバルクエッジ対応 | 
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| 第2節 | 設計への適用事例 | 
| 1 | 液晶のナノ階層構造のトポロジーと新しい対称性 | 
| 1 | ソフトマターのナノ階層構造のアナロジー | 
| 2 | 層状液晶秩序の長距離空間変調と対称性 | 
| 3 | コレステリックブルー相 | 
| 4 | カイラリティによりスメクチック層構造が変調された液晶相 | 
| 5 | 結語 | 
| 2 | 分子内トポロジーを利用した分子結晶の精密配列制御 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 分子間力による配列制御 | 
| 3 | 水素結合と配位結合による制御系 | 
| 4 | おわりに | 
| 3 | 非対称ナノ粒子の合成と機能 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 異方性相分離金属硫化物ナノ粒子 | 
| 3 | 異方性相分離Pd/γ─ Fe203 ナノ粒子の構造変態によるfct ─ FePd/α─ Fe 交換結合ナノコンポジット磁石の創製 | 
| 4 | おわりに | 
|  | 
| 第3編 位相幾何学(トポロジー幾何学)からはじまる | 
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| 第1章 | 位相幾何学の基礎 | 
| 1 | 位相幾何学とは何か | 
| 2 | 位相幾何的な形の研究 | 
| 3 | 位相幾何的な位置の研究 | 
| 4 | おわりに | 
|  | 
| 第2章 | 位相幾何学の物質・材料研究への応用可能性 | 
| 1 | トポロジカル分子 | 
| 2 | 結び目と絡み目の位相幾何学 | 
| 3 | ランダム絡み目と高分子 | 
| 4 | まとめ | 
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| 第3章 | 位相幾何学の物質・材料研究への導入事例 | 
| 第1節 | 解析・モデリングへの適用事例 | 
| 1 | 液晶ブルー相のトポロジカル欠陥構造と応用 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | ブルー相とは | 
| 3 | 単純ねじれと二重ねじれ | 
| 4 | ブルー相の構造 | 
| 5 | 高分子安定化ブルー相 | 
| 6 | 電気光学効果と駆動法 | 
| 7 | おわりに | 
| 2 | 高分子のトポロジー─絡み合いと結び目─ | 
| 1 | 高分子、トポロジーと結び目 | 
| 2 | トポロジー的絡み合い効果の研究 | 
| 3 | おわりに  結び目理論を応用したDNA のトポロジー解析 | 
| 1 | DNAの構造 | 
| 2 | 超らせん構造とリンキング数 | 
| 3 | 部位特異的組み換えとタングルモデル | 
| 4 | おわりに─材料開発・デザインへの期待 | 
|  | 
| 第2節 | 設計への適用事例 | 
| 1 | 多環高分子トポロジーの設計 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 単環状高分子合成法の進展 | 
| 3 | 多環状高分子合成法の進展 | 
| 4 | おわりに | 
| 2 | ナノスケールループの精密合成 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 環状高分子の合成戦略 | 
| 3 | 高次な環状高分子トポロジー | 
| 4 | おわりに | 
| 3 | トポロジカル超分子の合成、構造、応用 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | ロタキサンとカテナン | 
| 3 | カテナンおよびロタキサン合成 | 
| 4 | カテナンおよびロタキサンの構造特性 | 
| 5 | 分子スイッチ、分子素子 | 
| 6 | 分子モーター | 
| 7 | おわりに | 
| 4 | トポロジカル光波の生成とその応用 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 液晶空間変調器によるトポロジカル光波の発生 | 
| 3 | トポロジカル光波レーザ | 
| 4 | トポロジカル光波の応用 | 
| 5 | 結論 | 
|  | 
| 第4編 グラフ理論(ネットワーク・多面体)からはじまる | 
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| 第1章 | グラフ理論の基礎 | 
| 1 | グラフとグラフ理論 | 
| 2 | いろいろなグラフ | 
| 3 | グラフの行列表現 | 
| 4 | グラフの彩色と四色定理 | 
| 5 | おわりに | 
|  | 
| 第2章 | グラフ理論の物質・材料研究への応用可能性 | 
| 1 | 物質とその性質 | 
| 2 | トポロジカルインデックス | 
| 3 | フラーレンの数理 | 
| 4 | 伝導性高分子 | 
| 5 | おわりに | 
|  | 
| 第3章 | グラフ理論の物質・材料研究への導入事例 | 
| 第1節 | 解析・モデリングへの適用事例 | 
| 1 | ナノチューブ、ナノグラファイトの格子構造 | 
| 1 | 緒言 | 
| 2 | 密度汎関数理論 | 
| 3 | ナノチューブナノ磁石 | 
| 4 | 磁性ナノチューブ | 
| 2 | ネットワーク物質のアモルファス構造解析 | 
| 1 | ランダムネットワーク構造 | 
| 2 | 水のネットワーク構造 | 
| 3 | 多面体構造の探索 | 
| 4 | 液体の中の多面体構造 | 
| 5 | おわりに | 
| 3 | タンパク質のモチーフ構造解析 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 相同タンパク質 | 
| 3 | 立体構造の類似性指標 | 
| 4 | モチーフ構造 | 
| 5 | むすび | 
|  | 
| 第2節 | 設計への適用事例 | 
| 1 | 新しい幾何学的スピンフラストレーション系のデザイン | 
| 1 | 物理学におけるフラストレーション | 
| 2 | 幾何学的フラストレーション格子 | 
| 3 | モデル物質の探索 | 
| 4 | ソフト化学とは | 
| 5 | 正方格子を舞台とした新奇な量子物性 | 
| 6 | 構造と物性の制御 | 
| 7 | まとめ | 
| 2 | ホウ素系ネットワーク物質における物性制御 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | ホウ素クラスタを構成要素とする化合物 | 
| 3 | ホウ素系2 次元ネット状化合物 | 
| 4 | まとめ | 
| 3 | 新しいトポロジカルナノカーボンの創製と機能発現 | 
| 1 | トポロジカルナノカーボン:次元から曲面へ | 
| 2 | ピーナッツ型ナノカーボン:正と負のガウス曲率を持つπ電子共役系 | 
| 3 | 曲面量子系への展開 | 
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| 第5編 フラクタルからはじまる | 
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| 第1章 | フラクタル幾何学の基礎 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 自己相似フラクタル | 
| 3 | 自己アフィンフラクタル | 
| 4 | マルチフラクタル | 
| 5 | おわりに | 
|  | 
| 第2章 | フラクタル幾何学の物質・材料研究への応用展開 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | フラクタル構造の特徴 | 
| 3 | フラクタル表面の濡れ | 
| 4 | 超撥水/ 撥油表面 | 
| 5 | ワックス表面における自己組織的フラクタル表面形成のメカニズム | 
| 6 | フラクタル立体の創製 | 
| 7 | おわりに | 
|  | 
| 第3章 | フラクタル幾何学の物質・材料研究への導入事例 | 
| 第1節 | 解析・モデリングへの適用事例 | 
| 1 | 固体粉体の粒度分布と破壊パターンのフラクタル解析 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 付着力と粒度分布 | 
| 3 | シミュレーション方法 | 
| 4 | 破壊パターンと粒度分布の関係 | 
| 5 | おわりに | 
| 2 | 微結晶シリコン薄膜表面のフラクタル構造解析と成長モデルおよびキャリア輸送評価への応用 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | スケーリング解析 | 
| 3 | 成長表面のフラクタル構造 | 
| 4 | 成長モデル | 
| 5 | キャリア輸送特性評価 | 
| 6 | おわりに | 
| 3 | フラクタル幾何学のスパッタリングへの応用 | 
| 1 | スパッタリング | 
| 2 | フラクタル表面モデル:フーリエ・フィルタリング法 | 
| 3 | スパッタリング収量(率) | 
| 4 | 定量的評価に向けて | 
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| 第2節 | 設計への適用事例 | 
| 1 | フラクタルメタマテリアルによるテラヘルツ電磁波の制御 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | H字型2 次元フラクタル | 
| 3 | まとめ | 
| 2 | 樹状構造の自己組織化と単電子回路への応用 | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 基本モデル | 
| 3 | 基本モデルの単電子回路化 | 
| 4 | おわりに | 
| 3 | フラーレンを材料とするフラクタル構造超撥水膜の作製 | 
| 1 | 自然界のフラクタル形状分子集合体 | 
| 2 | バラの花形状フラーレン分子集合体 | 
| 3 | フラーレン素材の超撥水材料 | 
| 4 | おわりに | 
| 4 | DNA フラクタル構造体の創製 | 
| 1 | DNA タイルのセルフアセンブリ | 
| 2 | アルゴリズミックセルフアセンブリ | 
| 3 | アルゴリズミックセルフアセンブリの初期構造とルールタイルセット | 
| 4 | シェルピンスキリボンによるエラー率測定 | 
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| まとめ | 
|  | 将来展望 無限大とどう闘うか | 
| 1 | はじめに | 
| 2 | 炭素の同素体 | 
| 3 | 6角形以外のネットワークの可能性 | 
| 4 | おわりに |