本書は、「MBR(膜分離活性汚泥法)による水活用技術」と題して、現在MBRに携わる日本の多数の研究者、専門家そして実務家が執筆している。省スペースかつ高度な処理水質が得られるMBRは、排水処理のみならず処理水の直接間接の再利用の面からも注目されている。水処理技術ではなく水活用技術とした所以である。
本書の内容は、MBRの基礎知識から、国内外のMBR活用事例、運転管理とメンテナンスの要点、最新のMBRシステム開発とその適用事例、さらに新しいMBRの開発方向など、最新かつ重要な情報を網羅したstate-of-the-artである。
MBRは、海水淡水化のためのRO(逆浸透)と並んで、日本が国際競争力を有する水処理技術として、その国際的な水ビジネス展開が期待されてもいる。また、下水道の分野でも、これまでの小規模下水処理にとどまらず、既存の下水処理場の更新や大規模下水処理へのMBRの適用が図られようとしている。従って、国内の水ビジネスの活性化も期待できる。
本書で取り上げるMBRに関しては、決して近視眼的な水ビジネスではなく、地球規模での水・食料・エネルギー問題の解決を見据えた、持続可能な社会の形成に不可欠な水ビジネスであるべきである。水は地球規模で循環するいわば公共財である。水は、人間の安全保障にも、生物の安全保障にも欠くことのできない基本財である。産業革命以来の人口爆発、特に都市への人口流入は開発途上国においてなお際立っている。人は水を使用すれば、必ず汚水を排出する。都市から発生する汚水負荷は自然浄化の環境容量を容易に越えてしまうので、排水処理の基盤整備が未発達なところで人口が増加し都市産業活動が活発になると、必然的に水環境が汚染される。そこで真っ先に被害を受けるのは安全な水にコストが払えず汚染した水を使わざるを得ない貧しい人々である。彼らにとっても、自らの汚水による環境汚染が自らに帰ってくる悪循環を引き起こしている。この悪循環は断たねばならない。衛生的な水供給は、衛生的な排水処理と必ずペアになっていなければならない。このような都市の水問題を解決し貧しい人々への水活用をも実現する公共の技術として、本書で取り上げるMBRは、現在は無理であっても少なくとも将来は役立つはずである。
MBRに関心を持つ方々が本書の内容を有効に活用され、今後のさらなるMBRの発展につなげることができれば幸いである。 (山本和夫 「はじめに」)
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第1章 | 総論 |
1 | MBRの最大の特徴 |
2 | 使用される膜の性能 |
3 | MBRの基本構成 |
4 | MBRのチャレンジ性 |
5 | MBRの省スペース性 |
6 | MBR+としての組み合わせ技術 |
7 | MBRの導入状況 |
8 | MBRの宿命、ファウリング |
9 | MBRの担うべき高度処理 |
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第2章 | MBRの基礎 |
1 | MBR用膜の種類と特徴 |
1.1 | 膜の基礎 |
(1) | 分離対象成分と膜分離技術 |
(2) | MF、UF膜の性質 |
1.2 | MF膜、UF膜の製膜方法 |
(1) | 有機膜 |
(2) | 無機膜 |
1.3 | 膜の表面構造写真 |
(1) | 有機膜 |
(2) | 無機膜 |
1.4 | 膜の孔径分布 |
(1) | 有機膜 |
2 | 各種のMBRシステム |
2.1 | MBRの原理と特徴 |
2.2 | MBRのモジュール構造 |
(1) | モジュール構造 |
(2) | エレメント構造 |
3 | MBRの設計検討 |
3.1 | 流入水質の検討 |
3.2 | MBRの検討 |
3.3 | 運転管理項目とデータの例 |
3.4 | 膜の洗浄方法 |
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第3章 | MBRシステムの開発と適用 |
1節 | 浸漬型平膜を用いたMBRシステムの開発とその適用事例 |
1 | 液中膜の概要と特徴 |
1.1 | 液中膜の概要 |
1.1.1 | 膜カートリッジ及び膜ユニットの構造 |
1.1.2 | 製品ラインナップ |
1.2 | 液中膜を用いたMBRシステムの特徴 |
1.2.1 | シンプルな処理システム |
1.2.2 | 高度な処理水質 |
1.2.3 | 容易なメンテナンス |
1.2.4 | 耐久性に優れた平膜 |
2 | 開発の経緯 |
3 | 適用事例 |
3.1 | 国内における納入実績と適用事例 |
3.1.1 | 国内納入実績の推移 |
3.1.2 | 国内適用事例の紹介 |
3.2 | 海外における納入実績と適用事例 |
3.2.1 | 海外納入実績の推移 |
3.2.2 | 海外適用事例の紹介 |
2節 | PVDF浸漬型平膜によるMBRシステムの開発とその適用 |
1 | PVDF平膜の特徴 |
2 | PVDF平膜モジュールについて |
2.1 | 中大規模用モジュール(TMR-140シリーズ) |
2.2 | 小規模用モジュール(TMR-090シリーズ) |
3 | 設計、運転上の留意点 |
4 | 運転応用例 |
4.1 | パイロット試験(国内 農業集落排水 |
4.2 | 米国カリフォルニア州Title22認定テスト |
4.3 | 下水導入例(中東) |
5 | 経済性について |
3節 | MBR用PTFE膜モジュールの概要と適用例 |
1 | PTFE膜の概要 |
2 | MBR用浸漬型・PTFE中空糸膜モジュール |
2.1 | 膜モジュールの構造と基本仕様 |
2.2 | 運転条件 |
2.3 | 製品の特長 |
3 | 膜システムおよび運転事例 |
3.1 | 都市下水 |
3.2 | 産業排水 |
4 | トラブルと解決事例 |
5 | 今後の展望 |
4節 | PVDF内圧膜槽外型MBRシステムの開発とその適用 |
1 | AirLift式槽外型のMBR |
1.1 | 概要及び特徴 |
1.2 | AirLift MBRの設計ポイント |
1.3 | AirLift MBRの運転管理 |
1.4 | AirLift MBR膜ユニットの設計 |
2 | CrossFlow式槽外型のMBR |
2.1 | 概要及び特徴 |
2.2 | CrossFlow MBRの設計運転管理 |
2.3 | CrossFlow MBR膜ユニットの設計 |
5節 | 槽外型セラミック膜によるMBRシステムとその適用 |
1 | セラミック膜 |
1.1 | セラミック膜エレメントの構造 |
1.2 | セラミック膜の特長 |
1.3 | 大型セラミック膜モジュール |
1.4 | セラミック膜の運転方法 |
2 | 槽外型セラミック膜によるMBRシステム |
2.1 | システムフロー |
2.2 | 各設備の役割/特長 |
3 | 運転実績 |
3.1 | 運転条件 |
3.2 | 運転結果 |
3.3 | 運転のまとめ |
6節 | PVDF中空糸膜を用いた浸漬型MBRシステムの開発とその適用事例 |
1 | 浸漬型MBRの基本性能の検証 〜パイロットプラント実証運転〜 |
1.1 | パイロットプラントの概要、特長および運転条件 |
1.2 | 基本性能の検証と評価 |
2 | PDVF中空糸膜のファウリング防止 〜技術的ブラッシュアップに向けた実証運転〜 |
2.1 | ファウリングの概略メカニズム |
2.2 | ケーキ除去と膜面曝気量の低減 |
2.3 | 高フラックス化と膜面曝気量 |
2.4 | 「ろ過しやすい活性汚泥」の検討 |
2.5 | 連続運転における膜差圧の挙動 |
3 | PVDF中空糸膜を用いた浸漬型MBRシステムの実用化4) 〜下水への適用事例〜 |
3.1 | 施設概要 |
3.2 | MBR運転の立ち上げと初期運転 |
3.3 | 運転状況 |
3.4 | 処理水質 |
7節 | 中空糸膜を用いた膜分離槽別置型MBRシステムとその適用 |
1 | システムの構成 |
2 | システムの原理 |
3 | システムの特徴 |
4 | 実証試験 |
8節 | MBRによる微量化学物質・医薬品の除去 |
1 | 対象とする微量化学物質と従来法の下水処理での挙動 |
1.1 | 対象とする微量化学物質 |
1.2 | 下水処理での除去に影響を与える化合物の物理化学的性 |
2 | MBRでの微量物質除去率の向上方法 |
2.1 | 固液間の分配の移動による除去率の向上 |
2.2 | 粉末活性炭の添加による除去率の向上 |
3 | MBRでの微量物質除去の考え方 |
3.1 | 膜の付加による物理的効果 |
3.2 | 微生物量と微生物の活性の影響 |
3.3 | 活性汚泥を形成する微生物群集 |
3.4 | 微量物質の除去のためのMBR |
9節 | MBRによるノロウイルスの除去 |
1 | ノロウイルスに関する基本事項 |
1.1 | ノロウイルスの特徴 |
1.2 | ノロウイルスによる感染症 |
1.3 | ノロウイルスの汚染・感染経路 |
1.4 | ノロウイルスの検出方法 |
2 | 下水道におけるノロウイルスの挙動 |
2.1 | 下水中のノロウイルスの濃度レベル |
2.2 | 下水処理工程でのノロウイルスの除去率 |
2.3 | ノロウイルスに対する消毒効果 |
3 | MBRによるノロウイルスの除去 |
3.1 | 連続処理実験での除去性能 |
3.2 | ろ過膜洗浄の影響 |
3.3 | MBRによるノロウイルスの除去機構 |
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第4章 | 国内外におけるMBR、MBR-ROシステム |
1節 | MBR、MBR-ROシステムによる産業排水の処理と回収 |
1 | MBRの特徴 |
1.1 | MBR構成 |
1.2 | システムフロー比較 |
1.3 | 処理性能の比較 |
1.4 | 比較まとめ |
2 | MBRシステムによる産業排水の処理と排水回収事例 |
2.1 | ビル中水設備(油脂分解菌‐生物膜法‐MBR) |
2.2 | 電子産業向け排水回収(MBR‐RO) |
2節 | 食品工業排水におけるMBRシステムの適用例 |
1 | 排水成分の水への分散状態 |
2.1 | エマルション |
2.2 | コロイド分散 |
2.3 | 溶液 |
2 | エマルションの形態変化について |
3 | 食品系排水処理 |
3.1 | 技術概論 |
3.2 | 食品系廃水処理場への適用例 |
4 | まとめ |
3節 | 兵庫県福崎浄化センターにおけるMBRシステムの適用例 |
1 | 福崎浄化センターにおける膜分離活性汚泥法採用の経緯 |
2 | 福崎浄化センターにおける膜分離活性汚泥法の特徴 |
3 | 福崎浄化センターにおける膜分離装置の概要 |
4 | 福崎浄化センターの運転状況 |
4.1 | 流入量 |
4.2 | 好気タンクMLSS濃度 |
4.3 | 硝化液循環比 |
4.4 | 反応タンク水温 |
4.5 | 処理状況 |
4.6 | 膜の運転管理 |
4.7 | 電力量 |
4節 | 岡山県奥津浄化センターにおけるMBRシステムの適用例 |
1 | 導入経緯 |
1.1 | 下水道の必要性 |
1.2 | 処理方式の選定 |
2 | 奥津浄化センター施設概要 |
2.1 | 施設概要 |
2.2 | 浸漬型中空糸膜の特徴 |
2.3 | 運転条件 |
3 | 運転状況 |
3.1 | 流入水量 |
3.2 | MLSS |
3.3 | 処理水質 |
3.4 | 膜ろ過性能 |
4 | 維持管理者の視点から |
5 | まとめ |
5節 | 中東・ドバイにおけるMBR-ROシステムの適用例 |
1 | ドバイの水環境 |
1.1 | ドバイの排水事情 |
1.2 | ドバイの排水再利用 |
1.3 | 排水処理・再利用におけるMBR、MBR-ROシステムの適用 |
2 | MBRシステムの適用例 |
3 | MBR-ROシステムの適用例 |
4 | 新しい水ビジネス、水再生事業 |
6節 | 中国・韓国・シンガポールにおけるMBR の事例 |
1 | MBR 導入の利点 |
2 | 当社MBR 用中空糸膜について |
3 | 中国のMBR 市場 |
3.1 | 中国の水事情 |
3.2 | 中国における導入事例 |
4 | 韓国のMBR 市場 |
4.1 | 韓国の水事情 |
4.2 | 韓国における適用事例 |
5 | シンガポールにおけるMBR |
5.1 | シンガポールの水事情 |
5.2 | 当社のシンガポールにおける検討事例 |
7節 | EUにおけるMBRの動向と標準化 |
1 | EUにおけるMBRの導入状況 |
2 | EUにおけるMBRの標準化 |
2.1 | CEN/WS/34の組織と活動 |
2.2 | CEN/WS/34の目的と審議事項 |
2.3 | MBRの標準化に関する意識調査 |
2.4 | ワークショップ合意文書(CWA15897)の内容 |
8節 | アメリカにおけるMBRシステムによる排水再利用の例 |
1 | 世界の水不足の現状と水資源問題 |
2 | アメリカにおける排水再生利用の動向 |
3 | MBRシステムによる排水再利用の事例 |
3.1 | MBRシステムの特徴 |
3.2 | アメリカにおけるMBRシステムの応用 |
3.3 | アメリカのMBRシステムの応用事例 |
3.3.1 | アメリカにおける下水道用膜処理施設の導入状況 |
3.3.2 | ラスベガスのクラーク郡水再生地区の例 |
3.3.3 | カルフォルニア州Corona汚水処理場の例 |
3.3.4 | ジョージア州Cauley Creek再利用施設の例 |
3.3.5 | ミシガン州トラバースシティーの地方排水再利用処理プラントの例 |
9節 | 旭化成ケミカルズ製MBR用膜モジュールの海外納入例 |
1 | 旭化成の膜モジュール |
2 | 国内外の稼働状況 |
2.1 | 中国での事例 |
2.2 | オーストラリアでの事例 |
2.3 | 韓国での事例 |
2.4 | シンガポールの事例 |
10節 | カリフォルニアにおける水処理用膜の認定制度 |
1 | カリフォルニア州条例Title 22について |
2 | 旭化成ケミカルズ(株)の評価試験 |
2.1 | 評価条件 |
2.2 | 試験結果 |
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第5章 | 日本の下水道へのMBRの普及 |
1 | 日本におけるMBRの開発と普及の歴史 |
2 | 日本における水再利用を巡る現状とMBR |
3 | 下水道への膜処理に対するガイドラインの策定 |
4 | 既存処理場におけるMBR導入モデル事業 |
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第6章 | MBRの運転管理とメンテナンス |
1節 | MBRシステムの比較とトラブル対策 |
1 | MBRシステムの比較・分類 |
2 | MBRシステムのトラブル事例と対策 |
2.1 | MBR膜のファウリング |
2.1.1 | 油分による被覆 |
2.1.2 | バイオファウリング(1)スラッジング(MBR汚泥塊による被覆や閉塞) |
2.1.3 | バイオファウリング(2)分散性の微生物による閉塞 |
2.1.4 | バイオファウリング(3)MBR汚泥の通常の生物活動による被覆や閉塞 |
2.1.5 | 流入排水由来の異物による被覆 |
2.1.6 | 無機性の析出物による被覆および閉塞 |
2.1.7 | その他の有機物による被覆や閉塞 |
2.2 | 現場でのファウリング原因の究明 |
2.3 | MBR膜のファウリング物質除去方法 |
3 | MBR膜の劣化および破断 |
2節 | MBRにおける膜ファウリングの原因とメカニズム |
1 | 単純化された系における膜ファウリング |
2 | MBRにおける膜ファウリングに影響する因子 |
2.1 | 膜および膜モジュール特性が膜ファウリングへ及ぼす影響 |
2.2 | 供給水およびバイオマスの特性が膜ファウリングへ及ぼす影響 |
2.3 | 操作条件がMBRの膜ファウリングに及ぼす影響 |
3 | MBRにおける膜ファウリングの進行メカニズム |
3節 | MBRのファウリング対策 −安全運転のための薬品技術− |
1 | MBRの汚れ付着メカニズム |
2 | 汚れに対する対策 |
3 | 洗浄手段について |
4 | 薬品洗浄について |
5 | 安全運転のための汚れ防止処理とは |
6 | 安全運転のための薬品処理のまとめ |
7 | 薬品処理の実績例 |
7.1 | 埋立地浸出水処理施設(スペイン) |
7.2 | 食品工場(オランダ) |
7.3 | 低温時の透過性改善試験(パイロットプラント) |
7.4 | 下水処理場(韓国) |
4節 | 膜分離活性汚泥法(MBR)の維持管理コスト縮減技術 |
1 | 膜分離活性汚泥法の維持管理コスト |
2 | 維持管理コスト縮減の手法/個別機器,運転方法による縮減 |
2.1 | 送風機動力の削減 |
2.2 | ポンプ動力の削減 |
2.3 | 余剰汚泥処分費の削減 |
3 | MBRシステム設計の最適化による縮減 |
3.1 | 適切な前処理設備 |
3.2 | 最初沈殿池の適用 |
3.3 | 負荷変動への対応 |
4 | 維持管理コスト縮減システムの検討例 |
4.1 | 空気量削減システムの概要 |
4.2 | 結果及び考察 |
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第7章 | 新しいMBRシステム |
1節 | 固定化担体を用いた新しい省エネMBRの開発 |
1 | 担体添加MBRの開発 |
1.1 | 従来MBRの現状と課題 |
1.2 | 省エネを可能にする担体添加型MBR |
2 | 大規模下水処理場向け担体添加型MBR適用システム |
2節 | 次世代型MBRシステム |
1 | 新たな高度処理の概念 |
2 | 高集積浸漬型膜モジュールの開発 |
3 | 傾斜板導入によるMBR内活性汚泥分配制御法の確立 |
4 | 生ごみ・便所排水・余剰汚泥のメタン発酵を組み込んだMBRによる排水・廃棄物処理及びエネルギー回収 |
5 | 熱帯地域に適した水再利用技術の研究開発 |