レアメタルは産業のビタミンであり、これからますますその役割は大きくなっていく。世界の素材JAPANにとってこのレアメタルを活用しよりすぐれた高機能素材を世界に供給していくことは、我が国も活力源でもあり国際的に貢献が求められている領域である。しかし、我が国はそのレアメタルの資源をほとんど外国から入手せざるを得ず、多くの経済・政治的状況によってはその安定供給が困難になるリスクも負っている。そこで、我が国の都市鉱山、すなわち使用済製品や製造時の廃棄物も含めた非使用物の蓄積を活用するリサイクルが一つの手段として注目されている。
幸いにも我が国は歴史的にも近代工業においても優れた製錬・冶金技術をもっており、現在に至るまでその技術水準は世界をリードしてきた。しかし、ここにきて資源国での技術開発も急速に進み、従来の技術はグローバリゼーションの中に飲み込まれようとしている。そこに、都市鉱山の開発という再び世界の先頭に立つ新しい課題に我々は面している。
とりわけ、近年のレアメタルは、まさにそのレア(希少)さを競うかのように、ナノテクノロジーの中でほんのわずかな量が使用されている。この中からレアメタルを有効かつ経済的に回収するのは至難の業である。このナノテクノロジーに使用されるレアメタルの回収には、やはりナノテクノロジーの力が必要なのかもしれない。
本企画の前半はそのような観点から、いまだ実験室規模での大胆な挑戦を含む新しい技術の可能性とそれを支える科学の視点で構成してみた。もちろん、それらが社会の中で経済的に成立するにはある程度の時間が必要であろう。しかし、それを可能にするリサイクルの総合力を我が国は持っている。後半では、今まさに動いているレアメタルなど希少金属のリサイクルの姿を示すことにした。この両者が融合していくことにより新たな技術的高みが形成されていくことを期待し、本書がそれに貢献できればと願っている。
2011年 7月 原田 幸明
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原田幸明 | (独)物質・材料研究機構 元素戦略材料センター 資源循環設計グループ グループリーダー/元素戦略調査分析統括グループ グループリーダー |
大渡啓介 | 佐賀大学 大学院 工学系研究科 循環物質化学専攻 教授 |
長縄弘親 | (独)日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究部門 研究主席 兼環境化学研究グループリーダー |
阿部英樹 | (独)物質・材料研究機構 環境再生材料ユニット 主幹研究員 |
池田泰久 | 東京工業大学 原子炉工学研究所 システム安全工学部門 教授 |
後藤雅宏 | 九州大学 大学院 工学研究院 応用化学部門 教授 |
久保田富生子 | 九州大学 大学院 工学研究院 応用化学部門 助教 |
松宮正彦 | 横浜国立大学 大学院 環境情報研究院 准教授 |
永井大介 | 群馬大学 大学院 工学研究科 助教 |
Sherif El-Safty | (独)物質・材料研究機構 元素戦略材料センター 資源循環設計グループ 主幹研究員 |
玉田正男 | (独)日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 環境・産業応用開発ユニット ユニット長 |
菅原勝康 | 秋田大学 大学院 工学資源学研究科 環境応用化学科 教授 |
望月友貴 | 秋田大学 ベンチャービジネスラボラトリー 博士研究員 |
柴山敦 | 秋田大学 大学院 工学資源学研究科 環境応用化学科 教授 |
平井伸治 | 室蘭工業大学 大学院 工学研究科 もの創造系領域 教授 |
加茂徹 | (独)産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 吸着分解研究グループ 研究グループ長 |
川喜田英孝 | 佐賀大学 大学院 工学系研究科 准教授 |
馬場由成 | 宮崎大学 工学部 物質環境化学科 教授 |
金子達雄 | 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 准教授 |
岡島麻衣子 | 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 研究員 |
森寛敏 | お茶の水女子大学 お茶大アカデミック・プロダクション 特任助教 |
望月祐志 | 立教大学 理学部 化学科 未来分子研究センター 教授 |
古明地勇人 | (独)産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門 主任研究員 |
三好永作 | 九州大学 名誉教授 |
藤原崇幸 | 立教大学 大学院 理学研究科 博士課程 |
中村崇 | 東北大学 多元物質科学研究所 サステナブル理工学研究センター 教授 |
竹田修 | 東北大学 大学院 工学研究科 金属フロンティア工学専攻 助教 |
芝田隼次 | 関西大学 環境都市工学部 エネルギー・環境工学科 教授 |
野瀬勝弘 | 東京大学 生産技術研究所 特任助教 |
岡部徹 | 東京大学 生産技術研究所 教授 |
佐藤孝之 | DOWAメタルマイン(株) 企画室 課長 |
日野順三 | JX日鉱日石リサーチ(株) 金属調査部 執行役員 |
新井義明 | 三菱マテリアル(株) 環境リサイクル事業部 循環システム推進部 副部長 |
古賀沙織 | 三菱マテリアル(株) 環境リサイクル事業部 循環システム推進部 総合職 |
星名久史 | 三菱マテリアル(株) 環境リサイクル事業部 循環システム推進部 副技術主幹 |
山口省吾 | 三菱マテリアル(株) 環境リサイクル事業部 循環システム推進部 部長 |
近藤比呂志 | 三菱マテリアル(株) 環境リサイクル事業部 事業部長 |
奥田晃彦 | 田中貴金属工業(株) 化学回収事業部 湘南工場 ヘッドマネージャー |
中西二郎 | (株)三徳 常務取締役 事業本部長 |
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[先端技術編] |
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第1章 | 溶液反応 |
1 | 環状化合物によるレアメタル分離(大渡啓介) |
1.1 | はじめに |
1.2 | 代表的な環状化合物とそれらを基体とする抽出試薬の分子設計について |
1.3 | 抽出試薬の抽出性能や分離性能に関わる因子と効果について |
1.4 | カリックスアレーンを基体とする抽出試薬を用いた研究例 |
1.5 | カリックスアレーン型抽出試薬の問題点と改善に関する研究例について |
1.6 | ポダンド型抽出試薬を用いた研究例 |
1.7 | おわりに |
2 | 分子認識、超分子を用いたレアメタル抽出(長縄弘親) |
2.1 | はじめに |
2.2 | 逆ミセル反応場を利用したレアメタル抽出と分子認識 |
2.3 | スーパーウィークアニオン周囲の疎水場を利用したレアメタル抽出と分子認識 |
2.4 | 新規環状化合物を用いたイオン液体へのレアメタル抽出 |
3 | 常温・常圧溶媒中のナノ材料合成(阿部英樹) |
3.1 | はじめに |
3.2 | 太陽電池用シリコンに対するトップダウンアプローチとボトムアップアプローチ |
3.3 | ボトムアップアプローチによる高融点材料の室温合成 |
3.4 | ボトムアップアプローチによるナノ構造の構築 |
3.5 | ボトムアップアプローチによる金属・有機ハイブリッド材料の合成 |
3.6 | おわりに |
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第2章 | 液液反応 |
1 | 金属イオン抽出分離用イオン液体の合成法及び抽出特性(池田泰久) |
1.1 | はじめに |
1.2 | 疎水性イオン液体の合成法 |
1.3 | イオン液体の精製法 |
1.4 | 金属イオンに対する抽出特性 |
1.4.1 | ランタノイド(V)イオンに対する抽出能 |
1.4.2 | 他の金属イオンに対する選択抽出性 |
1.4.3 | イオン液体の疎水性の影響 |
1.4.4 | BMI+, PMI+, HMI+イオンの分配挙動 |
1.4.5 | NfO-イオンの分配挙動 |
1.4.6 | BMI+NfO-, PMI+NfO-, HMI+NfO-−水相間における金属イオンの分配機構 |
1.5 | 最近の動向 |
2 | イオン液体を用いたレアメタルの高度分離(後藤雅宏、久保田富生子) |
2.1 | はじめに |
2.2 | レアメタル含有廃棄物からの回収フロー |
2.3 | イオン液体 |
2.4 | 液膜分離プロセス |
2.5 | イオン液体による金属抽出 |
2.5.1 | 工業用抽出剤による金属の抽出挙動 |
2.5.2 | 新規抽出剤によるイオン液体抽出 |
2.6 | 液膜分離システムの開発 |
2.7 | おわりに |
3 | イオン液体電析によるレアメタル回収(松宮正彦) |
3.1 | はじめに |
3.2 | イオン液体の特性 |
3.3 | イオン液体中での電気化学測定 |
3.4 | イオン液体中でのレアアース電解析出技術 |
3.5 | おわりに |
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第3章 | 液固反応 |
1 | ポリマーによるレアメタル回収(永井大介) |
1.1 | はじめに |
1.2 | アミノ基、カルボキシル基を有するポリマー |
1.3 | 硫黄原子を有するポリマー |
1.3.1 | Quadra Pure |
1.3.2 | チオ尿素骨格を持つポリアリルアミンハイドロゲル |
1.3.3 | チオウレタン骨格を持つポリマーを用いた水/有機溶媒二相系による回収 |
1.4 | 感温性ゲル吸着材 |
1.5 | ポリマーマイクロカプセルを用いたレアメタル回収 |
1.6 | 今後 |
2 | メゾポーラス材料を用いた抽出(原田幸明、Sherif El-Safty) |
2.1 | はじめに |
2.2 | HOM(High Ordered Meso-porous Monolith:高秩序メゾポーラス・モノリス)とその製造 |
2.3 | HOM感受体(sensor)の作成 |
2.4 | より堅固かつ高密度な感受体 |
2.5 | HOM感受体の吸着・捕獲性能 |
2.6 | 金属抽出へのHOM感受体の応用 |
2.7 | おわりに |
3 | 放射線グラフト重合による金属捕集材(玉田正男) |
3.1 | はじめに |
3.2 | 放射線グラフト重合 |
3.3 | 金属捕集材の合成と特長 |
3.4 | 希少金属捕集への応用 |
3.5 | 海水中のウラン捕集 |
3.6 | 温泉中のスカンジウム捕集 |
3.7 | おわりに |
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第4章 | 溶融・揮発反応 |
1 | 塩化揮発に基づくレアメタルリサイクル(菅原勝康、望月友貴、柴山敦) |
1.1 | はじめに |
1.2 | 研磨粉からのインジウムの分離 |
1.2.1 | 試料ならびに実験方法 |
1.2.2 | インジウムの塩化揮発挙動 |
1.2.3 | エーテル抽出によるインジウムの選択的分離 |
1.3 | Nd-Fe-B磁石からのネオジムならびにプラセオジムの分離 |
1.3.1 | 試料ならびに実験方法 |
1.3.2 | 塩化揮発におけるNd-Fe-B磁石構成元素の動的挙動 |
1.3.3 | 酸化Nd-Fe-B磁石の塩化揮発に及ぼす炭素源添加の影響 |
1.4 | 塩化揮発法によるレアメタル回収の可能性 |
2 | 炭素還元によるレアメタル回収(平井伸治) |
2.1 | 酸化物の炭素還元反応 |
2.2 | Pbの回収 |
2.3 | Niの回収 |
2.4 | Crの回収 |
2.5 | Mnの回収 |
2.6 | 廃リチウムイオン二次電池からLi、Co、Ni、Mnの回収 |
3 | 可溶化および水蒸気ガス化を用いた使用済み電気電子機器からの貴金属・レアメタルの回収(加茂徹) |
3.1 | はじめに |
3.2 | 電気電子機器に使用されているプラスチックの特徴 |
3.3 | ソルボルシス法の特徴と水素供与性溶媒の効果 |
3.4 | クレゾール系溶媒を用いたエポキシ樹脂の可溶化 |
3.5 | 杉から製造したタールによるエポキシ樹脂の可溶化 |
3.5.1 | 乾留法 |
3.5.2 | 木質液化法(アルカリ) |
3.5.3 | 木質液化法(酸) |
3.6 | 水蒸気ガス化による使用済み電気電子機器からの資源回収 |
3.7 | 混合炭酸塩共存下における残渣モデル(活性炭)の水蒸気ガス化 |
3.8 | エポキシ基板の水蒸気ガス化 |
3.9 | おわりに |
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第5章 | バイオマス利用 |
1 | バイオマス廃棄物ポリフェリールによる貴金属回収(川喜田英孝) |
1.1 | はじめに |
1.2 | バイオマス廃棄物由来のポリフェノール吸着剤の調製 |
1.3 | バイオマス廃棄物由来のポリフェノール吸着剤による金イオンの回収 |
1.4 | アミノ基導入型ポリフェノール吸着剤の調製および貴金属の回収 |
1.5 | カラム充填型システムによる連続的な貴金属回収プロセスの構築 |
1.6 | おわりに |
2 | キチン・キトサンを活用したレアメタル回収のための吸着材の開発とその工学的応用(馬場由成) |
2.1 | はじめに |
2.2 | 基礎編 |
2.2.1 | 吸着材の素材としてのキチン・キトサン |
2.2.2 | キチン・キトサンを素材とした高選択的吸着材の分子設計 |
2.2.3 | 分子インプリント法による高選択的キトサン誘導体の開発 |
2.2.4 | 水の浸透圧差を利用したキトサン球状体の細孔構造設計 |
2.3 | 応用編 |
2.3.1 | 架橋キトサンコーティングフィルターを応用したITOエッチング廃液からのインジウムおよびスズの分離回収プロセスの開発 |
2.4 | おわりに |
3 | サクランゲルを用いたレアメタル回収(金子達雄、岡島麻衣子) |
3.1 | 研究背景 |
3.1.1 | レアメタル問題 |
3.1.2 | バイオマスを用いたレアメタル回収 |
3.2 | サクラン(スイゼンジノリ多糖体)の抽出と構造、物性 |
3.2.1 | サクランの抽出と構造 |
3.2.2 | サクランの溶液物性 |
3.2.3 | サクラン分子鎖と金属吸着 |
3.2.4 | サクランゲルと金属吸着 |
3.3 | 結論と展望 |
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第6章 | 計算科学 |
1 | 計算科学によるレアメタル抽出錯体設計の課題(森寛敏) |
1.1 | 我が国における元素戦略の必要性と元素戦略における分子シミュレーションの立場 |
1.2 | 元素戦略に必要とされる分子理論とは |
1.2.1 | 大規模分子理論:フラグメント分子軌道(FMO)法 |
1.2.2 | 精密な相対論的分子理論:モデル内殻ポテンシャル(MCP)法 |
1.3 | 相対論的MCP法を適用した応用計算例 |
1.3.1 | 実験/全電子計算と比較した相対論的MCPの制度・計算効率 |
1.3.2 | 相対論的MCP法によるメタルイオン捕捉キレート剤のシミュレーション例 |
1.4 | おわりに |
2 | フラグメント分子軌道法と分子道力学シミュレーション(望月祐志、古明地勇人) |
2.1 | はじめに |
2.2 | フラグメント分子軌道法 |
2.3 | 分子道力学法 |
2.4 | 応用事例 |
2.4.1 | ホルムアルデヒドの励起エネルギー:構造サンプリング |
2.4.2 | メチルジアゾニウムイオンの加水分解:反応機構シミュレーション |
2.4.3 | Menshutkin反応:自由エネルギープロフィール |
2.4.4 | 水中のプロトン移動:DFとFMO3の評価 |
2.4.5 | Zn(II)の水和構造:FMO2とFMO3の比較 |
2.4.6 | 水の動径分布関数:MP2による分散力の考慮 |
2.5 | 今後の展開 |
3 | 計算科学による希土類金属抽出キレート分子の設計に向けて(三好永作、藤原崇幸) |
3.1 | はじめに |
3.2 | 希土類金属抽出キレート分子設計のための理論的枠組み |
3.3 | ラージコアMCPの開発とFMO-MD計算の先行研究 |
3.4 | これからの本格的研究の展望 |