高分子材料に限らず、材料の破損とか破壊現象というのはもともときわめて複雑な様相を示すことで知られている。特に、構造材料や工業用材料として高分子材料を使用するときの破壊事故は、人命にかかわる大きな事故となる可能性を想定しておく必要がある。仮に小さな破壊事故であっても運悪くそれが起きた場合には、その原因を徹底的に追及することで、再び同じような事故が生じないように設計、材料選択、生産、品質管理に反映させることが大事である。
本書は高分子材料の破損と破壊の事例を現象別、材料別に多くの応用分野から集めて解説したものである。今まで多くの技術者がこのような書籍の発行を望んでいたものであるが、事故クレームにかかわることはいろいろ事情があってなかなか公表し難いということもあり、そのとりまとめが難しかったところをなんとか完成にこぎつけた。是非、プラスチック、ゴム、接着など高分子材料に関わる設計者、生産者、品質管理者などの技術者への参考になってもらいたいものである。
(成澤 郁夫 「はじめに」より抜粋)
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第1章 高分子材料の破壊メカニズムと破面の特徴 |
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1 | 高分子の破壊の特徴 |
2 | 破壊の様式 |
3 | ぜい性破壊と延性破壊 |
4 | 塑性拘束とぜい性破壊 |
5 | クレイズとぜい性破壊 |
6 | クラックの成長と破壊力学 |
7 | クラックの伝播速度とフラクトグラフィ |
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第2章 高分子破面解析手法のポイント |
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第1節 | 破面解析に用いる事故原因究明と機器類 |
1 | 有機材料と金属の破面解析の違いと補強手段 |
2 | 破面解析と事故原因究明の手順 |
3 | 破面解析に用いる機器類 |
3.1 | 走査型電子顕微鏡(SEM)と光学顕微鏡についての有効性の差異 |
4 | ゴム・プラスチック成形品の破損破壊とその種類 |
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第2節 | 破面の取り扱いと手法の選択 |
1 | 破面の取り扱いと手法の選択の概要 |
2 | 観察試料の採取 |
3 | 前処理 |
4 | 観察法 |
4.1 | 光学顕微鏡(OM:Optical Microscope) |
4.2 | 共焦点走査型顕微鏡(CLSM:Confocal Laser Scanning Microscope) |
4.3 | 走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope) |
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第3節 | SEMによる破面解析のポイント |
1 | SEM の原理と装置構成 |
2 | SEM による高分子観察法 |
2.1 | 金属蒸着法 |
2.2 | 無蒸着観察法 |
2.2.1 | 低加速電圧観察 |
2.2.2 | 最適試料照射電流の設定 |
2.2.3 | 画像積算 |
2.2.4 | 反射電子像観察 |
2.2.5 | 低真空観察 |
3 | 高分子破面への最新SEM 観察手法の適用例 |
3.1 | 低真空無蒸着観察 |
3.1.1 | ポリプロピレン樹脂材料破面の観察 |
3.2 | 広領域高解像観察 |
3.3 | 3次元形状観察 |
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第4節 | EDSによる破面解析のポイント |
1 | EDSの概要 |
1.1 | X線発生のメカニズム |
1.2 | X 線発生領域 |
1.3 | 分析領域の見積もり |
2 | EDSの原理 |
2.1 | Si(Li)検出器の構造 |
2.2 | SDD 検出器の構造 |
2.3 | EDS スペクトル |
2.4 | 元素マッピング |
2.5 | EDS による定量分析 |
2.6 | EDS 測定の注意点 |
2.6.1 | 時定数および照射電流 |
2.6.2 | カウント数およびエネルギー分解能に関するSi(Li)検出器とSDD検出器の比較 |
2.6.3 | 試料の表面状態(凹凸の影響) |
3 | 高分子材料のEDS 分析 |
3.1 | 尿素の分析(エネルギー分解能の選択) |
3.2 | ポリメチルメタクリレート(PMMA)の分析 |
3.3 | ウレタンゴム添加剤の分析 |
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第5節 | AFMによる破面解析のポイント |
1 | AFM |
1.1 | AFM の原理 |
1.2 | タッピングモードの原理 |
1.3 | 位相とエネルギー散逸 |
2 | AFMによる弾性計測 |
2.1 | 試料変形 |
2.2 | 接触力学 |
2.3 | Sneddon の弾性接触解 |
2.4 | AFMによるナノ触診技術 |
2.5 | 凝着接触 |
2.6 | フォースボリューム測定 |
3 | AFMによる破面解析 |
3.1 | モルフォロジー観察事例 |
3.2 | ナノ触診技術の破面解析への応用 |
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第3章 現象別破壊破面解析技術と事例 |
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第1節 | ぜい性破壊・延性破壊の破面 |
1 | ぜい性破壊 |
1.1 | 加硫ゴム |
2 | 延性破壊 |
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第2節 | 疲労破壊と破面 |
1 | プラスチックの場合の疲労 |
1.1 | 疲労破壊とストライエーション |
1.2 | PMM製成形品に疲労によって生じた破壊部破面のストライエーションと分子量、分子量分布の関係 |
2 | 加硫ゴムの場合の疲労 |
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第3節 | ウェルド割れの破面 |
1 | ウェルドラインからの応力集中によるき裂 |
2 | ウェルドラインでの破損を防ぐためにはどうしたらよいか |
3 | PP シートのウェルドラインでの割れ事故 |
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第4節 | オゾン劣化で生ずるクラック |
1 | ジエン系ゴムに対するオゾンの作用とクラック発生機構とその分析手法 |
2 | 顕微鏡FT-IR(フーリエ変換赤外分光)表面反射法によるオゾン劣化の明瞭なる判定 |
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第5節 | 溶剤・薬品によるき裂 |
1 | 溶剤き裂(ソルベントクラック) |
1.1 | PC の破断面観察とFT-IR, GS-MS による分析 |
1.2 | ソルベントクラックと破断 |
2 | ソルベントクラックの判定は破面観察だけでよいか? |
3 | PVC製排水管のソルベントクラック発生の実例より学ぶ破面観察とその原因究明 |
3.1 | PVC 配水管割れ発生原因の経緯 |
3.2 | クラック発生部の破面破壊 |
3.3 | 白色部と施工時用いられた接着剤およびPVC 管の組成分析 |
4 | PVC のソルベントクラックに対する考え方 |
5 | 他のソルベントクラック |
5.1 | 環境応力破壊(ESR, Environmental Stress Cracking) |
5.2 | ナイロン(ポリアミド)の金属イオンによる環境応力破壊(ESR) |
5.3 | 競争用自転車のサドル破損事故にみる環境応力き裂 |
5.4 | PC成形品の典型的なソルベントクラックの外観破面 |
5.5 | ABS樹のソルベントクラック |
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第6節 | 環境応力割れの破面 |
1 | 環境応力割れ現象の特徴 |
2 | 環境応力割れ破面の特徴 |
3 | 環境応力割れ破面の発生メカニズム |
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第4章 材料別破壊破面解析技術と事例 |
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第1節 | 熱硬化性樹脂の破面解析 |
1 | 熱硬化性樹脂の破壊様式と応力場 |
2 | 樹脂改質による破壊様式と物性の変化 |
2.1 | ゴム成分添加エポキシ樹脂の破面 |
2.2 | 熱可塑性樹脂微粒子添加エポキシ樹脂の破面 |
2.3 | 反応誘起型相分離を用いた熱可塑性樹脂添加エポキシ樹脂の破面 |
2.4 | ブロック共重合体(BCP)の自己組織化を用いたナノ相構造を有するエポキシ樹脂 |
3 | 炭素繊維強化プラスチックの破壊と層間破壊靭性向上 |
3.1 | 炭素繊維/エポキシ積層板の破面 |
3.2 | 炭素繊維/エポキシ積層板の層間剥離抑制 |
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第2節 | 結晶性熱可塑性樹脂の破面解析技術 |
1 | 破面解析の手順 |
1.1 | 不良状況の把握 |
1.2 | 破面解析の方法 |
2 | ポリアセタール樹脂「ジュラコンR」の標準破面 |
2.1 | ぜい性破面 |
2.2 | 静的な力による延性破面 |
2.3 | 疲労破面 |
2.4 | クリープ破面 |
2.5 | 腐食劣化破面 |
2.6 | 非強化PBT 樹脂の破面形態 |
3 | 強化系樹脂の解析手法 |
4 | 破損および対策事例 |
4.1 | シャープコーナーが原因になる破壊 |
4.2 | ウエルドライン上の異物混入による密着不良部からの破壊 |
4.3 | 層分離部からの破壊 |
4.4 | 疲労破壊の対策 |
4.5 | インサートギヤのクリープ破壊 |
5 | 新規破面解析手法について |
5.1 | ソフトエッチング法の開発 |
5.2 | 難解な破面の解析 |
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第3節 | 繊維強化樹脂の破面解析 |
1 | 短繊維強化樹脂 |
1.1 | 疲労破面 |
1.2 | 界面の影響 |
1.3 | 試験環境(雰囲気温度)の影響 |
2 | 連続繊維強化樹脂 |
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第4節 | 繊維強化樹脂の界面強度とタフネス |
1 | 繊維と樹脂の界面強度が高い場合 |
2 | 繊維界面に滑りが起きる場合 |
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第5節 | 炭素繊維強化樹脂の破面解析からわかる繊維/ 樹脂界面の接着強度 |
1 | 序論 |
2 | 界面強度の時間依存性 |
2.1 | 実験方法 |
2.2 | 試験結果と観察結果 |
2.3 | 応力−ひずみ線図 |
2.4 | 時間依存クリティカルポイント応力 |
2.5 | 時間依存の界面強度 |
3 | 界面強度の温度・時間依存性 |
3.1 | 実験方法 |
3.2 | 実験結果と破面観察 |
3.3 | 粘弾性有限要素解析 |
3.4 | 温度・時間依存の界面強度 |
4 | 検討 |
5 | 結言 |
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第6節 | ゴムの破面形成のメカニズムと破面の実態 |
1 | 破壊の進展過程解明に重要な破面解析 |
2 | ゴムの破面凹凸形成のメカニズム |
3 | FEMによるゴムの破面凹凸形成のシミュレ−ション |
3.1 | 破断面凹凸の形成過程 |
3.2 | 破断面凹凸の大きさを支配する因子 |
4 | ゴム破面の特徴的模様 |
4.1 | ゴムのフラクトグラフィの特殊性 |
4.2 | 架橋ゴムの破面の特徴的パタ−ン |
4.3 | 架橋ゴムの疲労破面 |
4.4 | 架橋ゴムの摩耗破面 |
4.5 | 架橋ゴムのオゾン劣化破面 |
5 | 架橋ゴム製品の破損事故解析 |
5.1 | ゴルフボ−ルの破損 |
5.2 | ゴム製品の破損 |
5.3 | ゴムベルトクリーナの破損事故解析実例 |
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第7節 | 電子顕微鏡による高分子接着界面破壊メカニズムの解析 |
1 | 高分子界面厚みと破壊面の相関 |
2 | 接着剥離表面の高分解能SEM 観察−ナノフィブリル構造 |
3 | 高分子界面における分子鎖絡み合い構造の解析−ナノフラクトグラフィー |
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第8節 | 粘着剤の破面解析 |
1 | 粘着テープ剥離のマスターカーブ |
2 | 剥離による粘着剤の形態形成 −粘性突起− |
2.1 | 現象 |
2.2 | メカニズム |
3 | 剥離時の粘着剤による形態形成 |
3.1 | プローブタック測定 |
3.2 | 粘着テープ剥離 |
4 | 粘着テープ剥離における装置剛性の影響 |
4.1 | トンネル構造の安定性が引き起こす自励振動 |
4.2 | 装置剛性の影響 |
4.3 | 剥離におけるパターン形成と動的相図 |
5 | 時空間共存パターンの特徴 |
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第9節 | 樹脂ライニングの破面解析 |
1 | ふくれ(Blister) |
2 | 剥離(Delamination)・浮き(Lifting) |
3 | 膨潤(Swelling)・軟化(Softening) |
4 | 変色 |
5 | 白化 |
6 | チョーキング(Chalking) |
7 | 割れ(Cracking) |
8 | 摩耗 |
9 | 変形 |
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第10節 | 車体用プラスチックの破面解析 |
1 | 試験片と実験手法 |
1.1 | 供試材料 |
1.2 | 試験片 |
1.3 | 実験手法 |
2 | 破面観察結果 |
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第11節 | 生体材料用高分子の破面解析 |
1 | 生体材料分野での破面解析の応用状況の概観 |
2 | 人工関節用摺動面高分子材料への破面解析の応用 |
2.1 | 人工関節とは |
2.2 | UHMWPEの酸化劣化への破面解析の応用事例 |
2.3 | UHMWPEの改質への破面解析の応用事例 |
2.4 | 不具合抜去インプラントUHMWPEコンポーネントへの破面解析の応用事例 |