近年、エレクトロニクス実装などの分野では、材料の電気伝導特性や熱伝導特性の改善に対する要求が高まっている。実用上から考えれば単に輸送特性を改善するだけでなく、接着性や信頼性など、トータルで要求性能を満足させる必要があるのは当然のことである。そのような要求性能を単一の材料で実現することは困難であるため、異種材料の複合化技術が盛んに研究されてきた。
しかし、異種材料を複合化するとしても、経験的に有効であるとわかっている方法や条件でフィラーとマトリックス材料を複合化し、特性評価が行われてきたというのが実情に近いのではないだろうか。こうして蓄積されたデータを様々な物理モデルを用いて解釈することも行われているが、複合系の材料特性の全容は明らかにされているとは言い難い。
このような現状では、輸送特性を改善できる決定的な材料設計指針を提示すること難しい。当然、本書でも輸送特性向上のための完璧な処方箋を示すことはできない。そこで、1)材料の電気および熱輸送現象に関わる学術的基礎(第1章)、2)フィラーや複合材料・ハイブリッド材料の研究開発の現状(第2,3,4,5章)、3)学術研究や材料開発の基礎となる特性評価法(第6章)の3つのポイントに着目し、基礎から応用に至る全体像を整理することにした。
読者の皆様には、状況に合わせて本書を様々な方法で活用いただきたい。例えば、第2章から第4章で材料開発の現状を把握すると同時に理論的な背景の一部を第1章で補足するという読み方もできるし、第5章の耐久性や信頼性に関する事柄から材料設計指針を再構築していくこともできる。また、第6章の各種の評価方法を確認しながら実験計画を練っていくこともできる。第1章では、従来の教科書や専門書であまり触れられていないChallengingな内容も敢えて含めることにした。読者の中から、これらの内容を超越した新しい発想が提案されることになれば、著者の望外の喜びである。
(井上雅博 「はじめに」より抜粋)
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第1章 | 電気・熱伝導の設計法 |
1 | 導電フィラー添加による絶縁性マトリックスへの導電性付与 |
1.1 | 有効媒質近似モデルとパーコレーションモデル |
1.2 | 有効媒質近似モデルとパーコレーション理論の問題点 |
1.3 | 金属学的接合コンタクトの形成 |
1.4 | 樹脂結合型導電性ペーストの実際 |
2 | 高熱伝導化のための材料設計 |
2.1 | 電気的絶縁性を有する高熱伝導材料の設計 |
2.2 | 導電性を有する高熱伝導材料の設計 |
2.3 | 金属材料の高熱伝導化 |
2.3.1 | 複合化による金属材料の高熱伝導化 |
2.3.2 | Ag/MWCNTナノコンポジットの熱伝導率解析 |
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第2章 | 電気・熱伝導材料の開発 |
第1節 | 電気・熱伝導材料の特性と材料設計 |
〔1〕 | 電気・熱伝導接着剤 |
1 | 高熱伝導性導電接着剤の構成材料設計 |
2 | 材料特性の評価 |
3 | 機能発現メカニズム |
4 | 今後の開発動向について |
〔2〕 | 高熱伝導性グラファイトシートの特性と応用 |
1 | 物質の電気伝導と熱伝導 |
2 | グラファイトの電気・熱伝導とその制御 |
3 | 高熱伝導性グラファイトシートの作製と物性 |
3.1 | 高分子焼成法によるグラファイトシート |
3.2 | 高品質グラファイトシートの物性 |
3.3 | 絶縁性の付与(複合体の形成) |
4 | グラファイト熱拡散シートの応用 |
4.1 | 熱拡散効果 |
4.2 | 冷却効果(冷却源と接続した場合) |
4.3 | ヒートスポット緩和効果 |
4.4 | LEDデバイス(実装)への応用 |
4.5 | LEDモジュールへの応用 |
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第2節 | 電気・熱伝導フィラーの特性と材料設計 -形状・配向性・サイズ・分散性- |
〔1〕 | アセチレンブラック |
1 | アセチレンブラックについて |
1.1 | アセチレンブラックの製造方法 |
1.2 | アセチレンブラックの特徴 |
2 | アセチレンブラックの粉体特性と評価方法 |
2.1 | 微構造 |
2.2 | 結晶性 |
2.3 | 水分、表面官能基 |
2.4 | 金属不純物 |
2.5 | 灰分 |
2.6 | DBP吸油量 |
2.7 | 粉体抵抗 |
3 | 特徴を持ったアセチレンブラック |
3.1 | 高比表面積アセチレンブラック |
3.2 | 高導電性アセチレンブラック |
4 | 用途 |
4.1 | 蓄電デバイス |
4.2 | 導電コンパウンド材料 |
4.3 | ゴム添加 |
〔2〕 | ケッチェンブラック |
1 | 導電性カーボンブラックの構造と種類 |
2 | ケッチェンブラックの構造と特徴 |
3 | 導電性カーボンブラックのパワーソース分野への応用 |
3.1 | 電気二重層キャパシター分野 |
3.2 | 二次電池分野 |
3.3 | 燃料電池分野 |
〔3〕 | カーボンナノチューブ・カーボンナノファイバー |
1 | CNT・CNFの特性と材料設計 |
1.1 | 形状特性 |
1.2 | 配向性と分散性 |
1.3 | カーボンナノチューブを用いた高熱伝導材料の材料設計 |
2 | カーボンナノチューブを用いた高熱伝導材料 |
2.1 | 製造方法 |
2.2 | 熱伝導特性 |
2.3 | 実用化に向けた特性 |
3 | 放熱板とした場合の熱拡散性 |
〔4〕 | グラフェンの電気伝導 |
はじめに:カーボンファミリーと炭素単原子膜「グラフェン」 |
1 | 原始的な作製方法の発見:スコッチテープによるグラファイトからの機械剥離 |
2 | 電子構造と超高電気伝導度:グラフェン中で電子は質量ゼロ、無限大の速度で走る? |
3 | グラフェンへのバンドギャップ導入 |
〔5〕 | 銀・銅 |
1 | 金属フィラーの形状 |
1.1 | 金属粉 |
1.2 | 金属箔片 |
1.3 | 金属繊維 |
2 | 電気・熱伝導フィラー |
2.1 | 銀フィラー |
2.2 | 銅フィラー |
3 | 表面改質技術 |
4 | 金属フィラー分散複合材料の電気・熱伝導特性 |
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第3章 | 絶縁・熱伝導材料の開発 |
第1節 | 絶縁・熱伝導材料の特性と材料設計 |
〔1〕 | 等方構造を有する絶縁・熱伝導樹脂コンポジット |
1 | 樹脂自身の高熱伝導化の必要性とその分子設計の考え方 |
1.1 | 樹脂自身の高熱伝導化の必要性 |
2.2 | 分子設計の考え方 |
2 | メソゲンを含有するエポキシ樹脂の高次構造 |
3 | メソゲンを含有するエポキシ樹脂コンポジットの高次構造 |
4 | 高熱伝導化の新しい試み |
4.1 | 高熱伝導性超ハイブリッド材料のコンセプト |
4.2 | 高熱伝導性超ハイブリッド材料の特性 |
〔2〕 | 高熱伝導電気絶縁性-液状エポキシ樹脂 |
1 | 設計思想 |
1.1 | フィラーの選定 |
1.2 | バインダの選定 |
2 | 特性値 |
3 | 接着強さ |
〔3〕 | ベース樹脂の高熱伝導化による熱可塑性高熱伝導性樹脂の開発 |
1 | ベース樹脂の高熱伝導化の重要性 |
1.1 | Bruggemanの理論 |
1.2 | 樹脂の熱伝導率 |
1.3 | ポリブチレンテレフタレート(PBT)/六方晶窒化ホウ素複合材料(h-BN)の熱伝導率 |
1.4 | 樹脂自体の高熱伝導化の研究例 |
2 | 開発のコンセプト |
3 | ベース樹脂を高熱伝導化する新たな手法 |
3.1 | 液晶ポリエステル |
3.2 | 結晶ラメラの配向と熱伝導率 |
3.3 | 結晶化度 |
4 | 樹脂/h-BN複合材料の熱伝導率 |
5 | 技術を応用した製品開発 |
5.1 | 分子構造 |
5.2 | 開発グレード |
5.3 | 放熱性能評価 |
5.4 | 厚み方向高熱伝導性グレードの用途 |
〔4〕 | 絶縁・放熱材料 |
1 | 窒化物セラミックスの主要特性 |
2 | 窒化物セラミックスの高熱伝導化 |
2.1 | 窒化アルミニウムの高熱伝導化 |
2.2 | 窒化ケイ素の高熱伝導化 167 |
3 | 窒化物セラミックスの適用事例と関連特性 |
3.1 | 窒化アルミニウムの適用事例 |
3.2 | 高熱伝導窒化ケイ素の適用事例 |
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第2節 | 絶縁・熱伝導フィラーの特性と材料設計-形状・配向性・サイズ・分散性 |
〔1〕 | 酸化アルミニウム(アルミナ) |
1 | アルミナの特性とその製造方法 |
1.1 | アルミナの特性 |
1.2 | アルミナの製造方法 |
2 | アルミナフィラー添加による有機高分子の高熱伝導化技術 |
2.1 | 熱伝導のメカニズム |
2.2 | 樹脂-セラミック複合体による高熱伝導化 |
2.3 | アルミナフィラー添加によるエポキシ樹脂の高熱伝導性化 |
2.4 | 熱伝導フィラーとしてのアルミナの差別化 |
〔2〕 | 窒化アルミニウム |
1 | 窒化アルミニウム(AlN)の性質 |
1.1 | AlNの構造 |
1.2 | AlNの物性 |
2 | AlN粉体の製法と特徴 |
2.1 | AlN粉体の工業的製造方法 |
2.2 | AlN粉体の形状制御 |
3 | 表面処理AlN粉体の特徴 |
3.1 | 耐水性付与技術 |
3.2 | 樹脂への分散性評価 |
4 | AlN充填樹脂材の熱伝導率評価 |
4.1 | フィラー充填樹脂材の熱伝導率測定方法 |
4.2 | AlNフィラー充填樹脂材の熱伝導率 |
〔3〕 | 窒化ホウ素 |
1 | 窒化ホウ素 |
1.1 | 窒化ホウ素(BN)の特徴 |
1.2 | 窒化ホウ素(h-BN)粉末 |
2 | 窒化ホウ素粉末を用いた放熱シート |
2.1 | 樹脂中の放熱フィラーの役割 |
2.2 | h-BN粉末の放熱フィラーとしての適用 |
2.3 | h-BNフィラーを用いた放熱シート |
3 | 窒化ホウ素成型体 |
3.1 | 窒化ホウ素成型体の製造方法 |
3.2 | 窒化ホウ素複合体の複合化 |
3.3 | 窒化ホウ素複合成型体の開発状況 |
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第4章 | フィラー特性及びフィラー充填構造と電気・熱伝導性との関係 |
1 | フィラーの導電性に及ぼす効果 |
1.1 | フィラーの種類(組成) |
1.2 | フィラー形状 |
1.3 | フィラー径 |
1.4 | フィラー充填量 |
1.5 | 添加物 |
1.6 | その他-成形方法効果- |
2 | フィラーの熱伝導性に与える効果 |
2.1 | フィラーの種類 |
2.2 | フィラー径 |
2.3 | フィラー形状(アスペクト比と配向効果) |
2.4 | フィラー充填量(率) |
2.5 | フィラー表面修飾 |
2.6 | フィラー連結材 |
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第5章 | 放熱材料の劣化現象、評価と対策-絶縁・導電性- |
第1節 | 繰り返しパルス電圧による絶縁放熱シートの劣化現象と対策 |
1 | 絶縁劣化の定義とその要因 |
2 | 充填材入りシート内部の電界分布 |
2.1 | 分極による電界の歪み |
2.2 | 繰り返しインパルスによる空間電荷の蓄積 |
3 | 繰り返しインパルスによる放熱絶縁シートの劣化機構の検討事例 |
3.1 | 試料および実験方法 |
3.2 | 実験結果および検討 |
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第2節 | パワーデバイスにおけるエレクトロマイグレーション |
1 | 金属配線におけるエレクトロマイグレーション |
1.1 | エレクトロマイグレーションのメカニズム |
1.2 | 材料によるエレクトロマイグレーション挙動の違い |
1.3 | 寿命評価 |
1.4 | 対策 |
2 | 実装部におけるエレクトロマイグレーション |
2.1 | はんだ接合部におけるEM現象と不良要因 |
2.2 | 対策 |
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第6章 | 電気・熱伝導の測定と特性評価 |
第1節 | 熱伝導率の測定方法と熱伝導特性評価方法 |
1 | 熱伝導率・熱拡散率の測定方法 |
1.1 | 熱伝導率・熱拡散率測定の原理と方法 |
1.2 | 測定方法の選択 |
2 | 応用的な熱伝導率・熱拡散率の測定方法 |
2.1 | フラッシュ法による多層材料や界面熱抵抗の評価 |
2.2 | 分散系複合材料の評価 |
3 | 熱伝導率・熱拡散率の測定結果の信頼性の考え方 |
4 | 熱伝導率・熱拡散率の測定時の注意点 |
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第2節 | 定常法による導電性接着剤の伝熱特性評価 |
1 | 測定原理と測定装置および測定方法 |
1.1 | 測定原理 |
1.2 | 測定装置と特徴 |
1.3 | 測定方法 |
2 | 測定可能な試験片の熱伝導率と厚さの範囲 |
2.1 | 装置から外気への熱損の影響 |
2.2 | 不確かさ解析 |
2.3 | 測定可能な試験片厚さと熱伝導率の範囲 |
3 | 試験片の作製 |
3.1 | 標準試験片 |
3.2 | 導電性接着材試験片 |
4 | 標準試験片の測定結果 |
4.1 | 試験片温度差の影響 |
4.2 | 試験片温度の影響 |
4.3 | 測定精度の検証 |
5 | 導電性接着剤の測定結果 |
5.1 | 有効熱伝導率の温度変化 |
5.2 | 素材の熱伝導率と界面熱抵抗 |
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第3節 | 電気抵抗の測定法と電気抵抗率評価方法 |
1 | 導体の電気抵抗測定 |
1.1 | 微小電気抵抗の測定法 |
1.2 | 微小抵抗測定のポイント |
2 | 絶縁体および高抵抗材料の電気抵抗測定 |
2.1 | 高電気抵抗の測定法 |
2.2 | 高抵抗測定のポイント |
3 | プロービングに由来する誤差発生要因 |