グラフェンの存在が初めて紹介されたのは2004年であり、グラフェンの単離とその特異な電子構造の発見によりノーベル賞が授与されたのはまだ2010年に過ぎないが、グラフェン研究は米欧、中国を中心として、目を見張るようなスピードで進展している。グラフェン研究は当初の基礎的研究よりも、本書が対象としているグラフェン・コンポジットのような応用研究が活発化している。グラフェンは低コストで量産可能であり、既存の高分子材料に微量添加で性能を格段に向上させるなど、産業や生活に直接貢献するイノベーション素材として期待されている。また、従来の素材にはない構造と特性を活かすことにより、エレクトロニクス、ロボット、医療等の先端分野の革新的素材としても注目され始めている。
わが国におけるグラフェン研究はスタートダッシュに失敗している。特に応用分野の遅れは、経済的、社会的な損失を招くことになると憂慮される。本書は、グラフェンの応用研究の遅れを取り戻す一助として、グラフェン応用研究の現状を知って頂くことを意図して企画された。幸い多くの若手研究者が最新の研究成果を寄稿して下さった。この方々がグラフェン研究の拠点となり、また、読者の皆様がグラフェン研究に強い関心をもたれることを大いに期待したい。
(「はじめに」より)
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序:グラフェンの素材化及びグラフェン・コンポジット開発の最近の展開と期待 |
1 | グラフェンは新奇な特性をもつ低コストの素材 |
1.1 | グラフェンの従来水準を超える特性 |
1.2 | 低価格で量産可能なグラフェン |
1.3 | コンポジット化に適するグラフェンの溶液親和性及びマトリクスとの結合性 |
2 | グラフェン・コンポジットは早期実用化により、社会にイノベーションをもたらす |
2.1 | グラフェン及びグラフェン・コンポジットの研究開発の現状 |
2.2 | グラフェンの優れるコンポジット化と特性 |
2.3 | グラフェン・コンポジットの研究開発分野 |
3 | グラフェン・コンポジット開発の現状と将来展望 |
3.1 | キャパシターの性能を15倍以上向上 |
3.2 | 0.1vol.%添加により絶縁高分子材料を導電性化 |
3.3 | 0.1wt.%添加により高分子材料の強度を42%向上 |
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第1編 グラフェンの素材化及び複合材料化技術 |
第1章 | グラフェン・酸化グラフェンの合成・製造方法 |
第1節 | 酸化グラフェンの合成方法とサイズ・酸化度の制御 |
1 | 様々な酸化グラフェンの合成法 |
1.1 | Brodie法 |
1.2 | Brodie法の改良 |
1.3 | Staudenmaier法 |
1.4 | Hummers法 |
1.5 | Hummers法の改良 |
2 | 黒鉛の種類の影響 |
3 | 酸化グラフェンのサイズ制御 |
3.1 | 黒鉛のサイズの影響 |
3.2 | 酸化によるグラフェンシートの開裂 |
4 | 酸化度の制御 |
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第2節 | 酸化グラフェンの熱的・化学的な還元によるグラフェン作成技術 |
1 | 酸化グラフェン還元方法の概要 |
2 | 酸化グラフェン還元の評価方法 |
3 | 化学処理による酸化グラフェンの還元 |
4 | 熱処理による酸化グラフェンの還元 |
4.1 | 真空・不活性雰囲気での加熱処理 |
4.2 | 反応性雰囲気中での加熱処理 |
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第3節 | グラフェン大量生産の可能性 〜グラフェン技術材料推進企業の立場から〜 |
1 | グラフェン製造法 |
1.1 | 合成 |
1.2 | 分解 |
1.3 | 剥離(へき開) |
2 | グラフェンの応用 |
2.1 | プリンテッドエレクトロニクス |
2.2 | コンポジット |
3 | 産業化 |
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第2章 | グラフェン及び酸化グラフェン表面への官能基修飾 |
第1節 | 酸化グラフェンを原料とした官能基修飾によるグラフェンの溶媒分散性向上 |
1 | グラフェンへの官能基付与 |
1.1 | イソシアネート基による官能基修飾 |
1.2 | ハロゲン化アルキルによる官能基修飾 |
1.3 | アミド結合による官能基修飾 |
1.4 | エステル結合による官能基修飾 |
2 | 還元酸化グラフェンへの官能基修飾 |
2.1 | スルホン酸基の付加による官能基修飾 |
3 | シランカップリング反応を用いた官能基修飾 |
3.1 | アルキルトリクロロシランによる官能基修飾 |
3.2 | アルキルトリメトキシシランによる官能基修飾 |
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第2節 | グラフェンへのポリマーのグラフト化と分散性の向上 |
1 | ナノ粒子表面グラフト化の方法 |
2 | グラフェンへのGrafting from法によるグラフト化 |
2.1 | 原子移動重合(ATRP)法によるグラフト化 |
2.2 | 可逆的不可解列連鎖移動(RAFT)法によるグラフト化 |
2.3 | 水酸基/Ce(IV)レドックス系におけるグラフト化 |
2.4 | カリウムカルボキシレート(COOK)基からのアニオングラフト重合 |
3 | グラフェンへの“Grafting onto”法によるグラフト化 |
3.1 | GOの官能基と末端反応性ポリマーとの高分子反応 |
3.2 | ポリマーラジカル捕捉法によるグラフト化 |
3.3 | フェロセン含有ポリマーとの配位子交換反応によるグラフト化 |
3.4 | GO表面カルボキシル基開始によるカチオン重合グラフト化 |
3.5 | GOへ導入したメタクリル基を用いるin-situ重合によるグラフト化 |
4 | ポリマーグラフトGOの分散性 |
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第3章 | グラフェンとポリマーの複合化技術 |
第1節 | 酸化グラフェン/PVA、酸化グラフェン/PMMA複合材料 |
1 | 酸化グラフェン |
2 | GO/PVAナノ複合材料 |
3 | GO/PMMA複合材料 |
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第2節 | グラフェン/高分子系複合材料の射出成形 |
1 | グラフェンの剥離処理法と射出成形品の物性の関係 |
1.1 | 臭素水処理 |
1.2 | Hummers法 |
2 | マトリクスの親水化によるPMMA共重合体/酸化グラフェン複合材料射出成形品の物性改善 |
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第2編 グラフェンベース、複合化、三次元構造化材料の研究開発 |
第1章 | グラフェン/有機高分子コンポジットの電気および熱伝導特性 |
1 | グラフェンコンポジットの輸送特性に関する理論的研究 |
1.1 | パーコレーション理論の適用 |
1.2 | 輸送特性発現メカニズムと理論解析モデル |
1.3 | CNTコンポジットとの比較 |
2 | グラフェンコンポジットの作製プロセス |
3 | グラフェンコンポジットの輸送特性の現状 |
3.1 | 電気伝導特性 |
3.2 | 熱伝導特性 |
4 | コンポジット特性の真の理解に向けて |
5 | グラフェンコンポジットの輸送特性向上のための今後の課題 |
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第2章 | グラフェン/金属複合材料 |
第1節 | 金属-グラフェン複合体、金属-酸化グラフェン複合体の作製と触媒作用 |
1 | 金属-酸化グラフェン複合体の作製 |
2 | 酸化グラフェン-金属複合体を用いた触媒反応 |
2.1 | クロスカップリング反応 |
2.2 | 水素化反応 |
2.3 | 酸化反応 |
2.4 | その他の反応 |
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第2節 | グラフェンを用いた燃料電池電極触媒 |
1 | Ptサブナノクラスターの生成 |
2 | Pt/GNS触媒の高性能化-表面積増大と高活性化 |
3 | 担体効果によるPt電子状態の変調 |
4 | グラフェン担体の特異性 |
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第3章 | 湿式法によるグラフェンシート複合体の合成と有機汚染物の吸着・除去 |
1 | 剥離-再積層化技術によるグラフェン・チタニアナノコンポジット |
2 | チタニアナノチューブ二次元沈着炭素ナノシート複合体 |
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第4章 | グラフェン機能薄膜 |
第1節 | グラフェン透明電極の溶液塗布による作製と応用 |
1 | グラファイト単結晶の単層剥離、可溶化 |
2 | 酸化グラフェン塗布膜形成と還元 |
3 | グラフェン透明電極の塗布形成と有機薄膜太陽電池への応用 |
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第2節 | グラフェンの透明電極・ガスセンサへの応用 |
1 | シリル化GOからの透明電極の作製と特性 |
1.1 | シリル化GOからの透明電極の作製 |
1.2 | 透明電極の特性 |
2 | シリル化GOからのピラー化炭素薄膜の合成とガスセンサ特性 |
2.1 | ピラー化炭素薄膜の作製 |
2.2 | ガスセンサ特性 |
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第5章 | グラフェン積層・複合化と高性能キャパシター開発 |
第1節 | グラフェンによる高容量キャパシター |
1 | グラフェンの作製と特性 |
1.1 | グラフェンの作製 |
1.2 | グラフェンの特性 |
2 | 三次元ナノ構造グラフェン積層電極材料の作製 |
2.1 | グラフェンと単層CNTとの複合化 |
2.2 | グラフェンの積層化 |
3 | 開発したグラフェンキャパシターの性能 |
3.1 | グラフェンキャパシターの構成と性能 |
3.2 | グラフェンキャパシターの可能性 |
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第2節 | 電解還元によるグラフェン作製とEDLCへの応用 |
1 | グラフェン/PAn複合膜の作製 |
2 | ERGO/PAn複合膜の構造 |
3 | ERGO/PAn複合膜のEDLC特性 |
4 | ERGO/PPy複合膜のEDLC特性 |
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第6章 | グラフェン・カーボンナノチューブ複合構造 |
1 | 複合構造(Composite)の歴史 |
2 | 構造と合成方法 |
3 | その他のナノカーボン複合構造 |
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付録:海外でのグラフェン・コンポジット研究開発の事例 |
1 | 材料開発関連 |
2 | 応用開発関連 |
3 | 材料構造・プロセス開発関連 |