低炭素化社会実現のための基盤技術として、膜分離が地球温暖化ガス対策としての二酸化炭素の分離・回収や、
水素エネルギーやバイオマスエネルギーなどの新エネルギーの開発における大規模なエネルギー削減技術として注目されている。
本書は、地球環境問題の解決や新エネルギーの開発に役立つ新しいプロセス技術である膜分離に着目し、高分子膜の開発・応用動向から、
21世紀に入り急速に発展した新しい膜素材であるゼオライト、シリカ、炭素膜などの多孔質無機膜の開発・応用動向、それらの膜の二酸化炭素分離や水素分離への応用、
さらには各種化学プロセス、燃料電池、バイオプロセスへの応用について、これから向かう方向を展望するためにまとめたものである。
分離膜は実用を背景としており、透過性、分離性はもとより、耐久性、操作性、経済性などの要求に応えるものでなくてはならない。
高分子膜でも長期の耐久性や高性能化の要求に応える膜開発が求められている。
一方、無機膜のシリカやゼオライト膜については分離性能や膜の安定性の点で評価が高いが、大量生産を考えたときに明らかに高分子膜に比べて生産性やコストの点で劣り、今後一層の検討が必要である。
膜の実用化には、膜素材の研究から始まり、製膜技術、モジュール化技術、分離システムの構築の各要素技術が確立されなければならない。
本書にはこれらの実例が数多く紹介されており、多くのヒントが得られるものと期待される。今後、地球持続のための技術として膜分離はますますその重要性を増し、
多くの研究者をひきつけるものと考えられる。
本書がこれから研究開発を展開しようとする研究者にとっても有益なテキストになることを確信している。
(「はじめに」より抜粋)
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第1章 | 膜による分離技術と応用 |
1 | 気体分離 |
2 | 浸透気化分離 |
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第2章 | 高分子ガス分離膜の分離機構と開発、応用動向 |
第1節 | 高分子ガス分離膜の分離機構と開発、応用技術 |
1 | 高分子膜の気体透過機構 |
2 | 高分子ガス分離膜の応用 |
2.1 | 高分子二酸化炭素分離膜 |
2.2 | 高分子水素分離膜 |
2.3 | 高分子バリア膜 |
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第2節 | ポリイミド膜の開発と応用 |
1 | ポリイミドの構造と物性 |
2 | ポリイミド膜の開発 |
2.1 | ポリイミド膜の歴史と課題 |
2.2 | ガス透過モデルと透過係数、透過速度、分離係数 |
2.3 | 拡散係数(D)の増大 |
2.4 | 架橋構造の導入 |
2.5 | 溶解係数の向上 |
2.6 | 他素材とのハイブリットとその他の方法 |
2.7 | 薄膜化とモジュール化 |
3 | ポリイミド膜の応用 |
3.1 | H2、He分離膜 |
3.2 | O2/N2分離膜 |
3.3 | CO2分離膜 |
3.4 | 除湿膜(H2O透過膜)と有機蒸気透過膜 |
3.5 | その他のガス分離膜 |
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第3節 | 実用化したポリイミド分離膜とその応用 |
1 | ガス分離用ポリイミド中空糸膜 |
2 | 応用場面と膜モジュールの構造 |
3 | 窒素富化 |
4 | 炭酸ガス分離 |
5 | 除湿 |
6 | 水素分離 |
7 | 有機蒸気脱水 |
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第3章 | 無機分離膜の分離機構と開発、応用動向 |
第1節 | セラミックス分離膜の分離機構と開発、応用技術 |
1 | 多孔質内の膜透過モデル |
1.1 | 粘性流 |
1.2 | Knudsen拡散 |
1.3 | 表面拡散 |
1.4 | 分子篩における透過モデル Modified Gas translation model |
2 | ナノ/サブナノ細孔の測定手法 |
2.1 | パームポロメトリー法(バブルポイント法) |
2.2 | ナノパームポロメトリー法(毛管凝縮法) |
2.3 | 膜透過性に基づく評価 |
3 | セラミック膜の開発と応用 |
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第2節 | ゾル-ゲル法によるシリカ膜の開発と応用技術 |
1 | ゾル-ゲル法による多孔質シリカ膜の作製 |
2 | アモルファスシリカネットワーク制御技術 |
3 | オルガノシリカ膜の各種分離特性 |
3.1 | 二酸化炭素分離特性 |
3.2 | プロパン/プロピレン分離特性 |
3.3 | 浸透気化特性(水/アルコール、酢酸) |
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第3節 | CVD法によるシリカ膜の開発と応用技術 |
1 | CVD法により作製されるシリカ膜 |
1.1 | シリカ膜の構造・形状 |
1.2 | CVD法 |
1.3 | 細孔径制御 |
2 | CVD法により作製されるシリカ膜を用いた応用技術 |
2.1 | 水素分離精製 |
2.2 | 水素以外のガス分離系 |
2.3 | 膜反応器(触媒膜反応器) |
2.4 | NF膜/RO膜 |
3 | 実用化に向けた課題 |
3.1 | 膜の大面積化・モジュール化 |
3.2 | 膜の耐水蒸気性・長期安定性 |
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第4節 | ゼオライト膜の開発と応用技術 |
1 | ゼオライト膜の製膜 |
2 | 気体分離 |
3 | 浸透気化分離 |
4 | その他の応用 |
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第5節 | 炭素膜の開発と応用技術 |
1 | フラン樹脂の炭化・賦活による炭素膜の合成と細孔径制御 |
1.1 | フルフリルアルコール(FFA)蒸気を用いたミクロポーラス炭素膜の合成 |
1.2 | FFA炭素膜の水素分離特性と細孔径制御 |
1.3 | 水素と芳香族化合物の分離(賦活ガスの影響) |
1.4 | 膜反応器への適用(有機ハイドライド) |
2 | 有機鋳型法による炭素膜の細孔径制御 |
2.1 | 有機鋳型法によるミクロポーラスカーボンの合成 |
2.2 | ミクロポーラス炭素膜の合成 |
2.3 | ガス透過分離特性 |
2.4 | 水・有機物分離特性 |
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第6節 | 中空糸炭素膜モジュールおよび分離プロセスの開発 |
1 | 中空糸炭素膜の製造工程 |
1.1 | 前駆体高分子の選択 |
1.1.1 | 酢酸セルロース(CA)およびセルロース類 |
1.1.2 | 芳香族ポリイミド |
1.1.3 | ポリアクリロニトリル(PAN) |
1.1.4 | ポリエーテルイミド(PEI) |
1.1.5 | ポリフェニレンオキシド(PPO)およびその誘導体 |
1.2 | 中空糸高分子膜の紡糸 |
1.3 | 炭化処理 |
1.4 | 炭素膜のモジュール化 |
2 | 中空糸炭素膜のガス分離性能 |
2.1 | 中空糸炭素膜のガス透過特性 |
2.2 | 前駆体の異なる中空糸炭素膜のガス分離性能 |
2.3 | 中空糸炭素膜によるCO2/CH4混合ガス分離 |
3 | 中空糸炭素膜を用いた分離プロセス |
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第7節 | 金属有機構造体(MOF)の分離膜への応用 |
1 | 分離膜に用いる金属有機構造体(MOF)の種類 |
2 | 金属有機構造体(MOF)膜の作製方法 |
2.1 | 混合マトリックス膜 |
2.2 | 直接重合法 |
2.3 | 二次成長法 |
2.4 | 対向拡散法 |
3 | ZIF-8膜によるプロピレン/プロパン分離 |
3.1 | プロピレン/プロパン分離とZIF-8 |
3.2 | 直接重合法および二次成長法によるZIF-8膜の作製 |
3.3 | 対向拡散法によるZIF-8膜の作製 |
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第8節 | 計算機支援による無機膜の構造および透過性評価 |
1 | ガス透過理論 |
1.1 | KnudsenモデルとGTモデル |
1.2 | 修正GTモデル |
1.3 | 修正GTモデルの細孔径評価への応用 |
1.4 | NKPプロットとk0プロット |
1.4.1 | Simple NKPプロット |
1.4.2 | Full NKPプロット |
1.4.3 | k0プロット |
2 | 分子シミュレーションによる多孔性膜の構造評価 |
2.1 | 分子シミュレーションによる仮想膜作製 |
2.2 | 分子シミュレーションによる膜構造評価 |
3 | 分子シミュレーションによる多孔性膜における気体透過性評価 |
3.1 | 透過モデルと分子シミュレーションのハイブリッド法 |
3.2 | 透過係数の直接計算法-非平衡MD計算- |
4 | 分子シミュレーションによる細孔径評価法の検証 |
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第4章 | 二酸化炭素(CO2)分離膜 |
第1節 | 高分子CO2分離膜 |
1 | 膜分離技術の概要 |
2 | CO2分離膜研究開発の国際動向 |
2.1 | 高分子膜 |
2.2 | 無機膜 |
2.3 | イオン液体膜 |
2.4 | 促進輸送膜 |
3 | 分子ゲート膜 |
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第2節 | イオン液体含浸膜 |
1 | イオン液体 |
2 | イオン液体含浸膜 |
2.1 | CO2吸収性 |
2.2 | CO2選択性 |
2.3 | CO2透過性 |
3 | 耐圧性イオン液体含有CO2選択透過膜 |
3.1 | 高分子化イオン液体膜 |
3.2 | イオンゲルフィルム |
4 | 反応性イオン液体含有促進輸送膜 |
4.1 | 反応性イオン液体の設計概念と反応性イオン液体含浸液膜のCO2透過機構 |
4.2 | アミノ酸イオン液体含浸膜 |
4.3 | 反応性イオン液体含浸膜の課題 |
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第3節 | CO2 膜分離を用いた次世代型水素ステーション用水素製造システム |
1 | CO2分離型メンブレンCO変成器(メンブレンリアクター)の効果 |
2 | CO2分離型メンブレンCO変成器(メンブレンリアクター)の開発 |
2.1 | CO2選択透過膜の開発 |
2.1.1 | CO2選択透過膜の作成・性能評価実験 |
2.1.2 | CO2選択透過膜の性能 |
2.1.3 | CO2選択透過膜の耐久性 |
2.1.4 | CO2選択透過膜の耐熱性の向上 |
2.2 | 高性能CO変性触媒の開発 |
2.3 | メンブレンリアクターの試作・テスト結果 |
3 | メンブレンリアクターによる水素ステーション全体の効率化・ダウンサイジング |
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第4節 | ゼオライト膜 |
1 | ゼオライト膜による二酸化炭素分離 |
1.1 | ゼオライト膜の概要 |
1.2 | 種々のゼオライト膜による二酸化炭素分離 |
2 | 高シリカCHA膜(MSM-1)の開発 |
2.1 | 高シリカCHA型ゼオライトの特徴、MSM-1の特徴と浸透気化特性 |
2.2 | 高シリカCHA型ゼオライト膜、MSM-1の特徴と浸透気化特性 |
2.3 | MSM-1のガス分離特性 |
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第5章 | 水素分離膜 |
第1節 | Pd系水素分離膜の高性能化 |
1 | Pd系膜の水素透過機構 |
2 | 薄膜化・複合膜化による高性能化 |
3 | 合金化による高性能化 |
4 | Pd膜の耐久性向上 |
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第2節 | V系を中心としたPd代替金属系水素分離膜 |
1 | 金属系水素分離膜の周辺状況 |
2 | 金属膜による水素分離の原理と特徴 |
2.1 | 水素原子の格子拡散を利用して水素のみを透過する金属膜 |
2.2 | 金属膜における各パラメーター間の関係式 |
3 | 実用の状況 |
4 | 金属系水素分離膜の研究開発における国際動向 |
5 | 我が国を中心とするV系水素分離膜の開発状況 |
6 | メンブレンリアクターへの応用に向けて解決すべき技術課題 |
6.1 | 水素製造用メンブレンリアクター |
6.2 | 化学合成用メンブレンリアクター |
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第3節 | 水素分離型リフォーマーシステム |
1 | 従来型水素製造システム |
1.1 | 水蒸気改質反応・COシフト反応 |
1.2 | システム構成 |
2 | 水素分離型リフォーマーシステム |
2.1 | 原理 |
2.2 | システム構成 |
3 | 40 Nm3/h級試験システム |
3.1 | 40 Nm3/h級試験システムの構成 |
3.2 | 水素製造効率 |
3.3 | 製品水素純度 |
3.4 | 耐久試験結果 |
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第6章 | 化学プロセスへの膜分離の適用 |
第1節 | 化学プロセスへの無機膜分離プロセスの適用と展望 |
1 | 石油化学における分離技術の革新の重要性 |
2 | 無機分離膜開発の必要性と化学プロセス適用に対する優位性 |
3 | 化学プロセス用脱水膜開発の事例:イソプロピルアルコール脱水膜 |
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第2節 | 無機多孔体の実用化動向 |
1 | ゼオライト膜用多孔質セラミックス基材の開発 |
2 | ゼオライト膜用多孔質アルミナ基材の作製 |
3 | 基材の機械的強度 |
4 | 基材の表面特性 |
5 | 多孔質基材の特性とゼオライト膜性能 |
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第3節 | ゼオライト膜の実用化 |
1 | PV(VP)分離 |
2 | ゼオライト複合膜 |
2.1 | 製膜 |
2.2 | ゼオライト複合膜の特性 |
2.2.1 | ナノ孔径分布特性 |
2.2.2 | 透過特性 |
2.3 | 機械的強度および耐熱性 |
2.4 | 耐酸性 |
3 | 円筒型ゼオライト膜モジュール |
3.1 | 二重円筒型膜モジュール |
3.2 | 円筒型膜モジュール |
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第4節 | 化学プロセスにおけるゼオライト分離膜技術 |
1 | ゼオライト分離膜エレメント |
2 | 膜分離のメカニズム |
3 | 膜モジュール |
4 | 膜分離方法 |
5 | プロセス適用事例 |
6 | プロセス最適化検討 |
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第5節 | ゼオライト膜のエステル化反応と酸化反応への応用 |
1 | 膜反応器 |
2 | ゼオライト膜を用いた膜反応器 |
3 | エステル化反応への適用 |
4 | ゼオライト膜の選択透過能と触媒能の利用 |
5 | 液相酸化反応の触媒膜としての利用 |
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第6節 | 無機系水素分離膜と膜反応器の化学系水素キャリアシステムへの応用 |
1 | 再生可能エネルギー |
1.1 | 水力発電 |
1.2 | WE-NET計画 |
1.3 | エネルギーキャリア |
2 | 水素分離精製への無機および金属膜の利用 |
2.1 | サブナノ細孔膜 |
2.1.1 | ゼオライト膜 |
2.1.2 | シリカ膜 |
2.2 | パラジウム膜 |
3 | 膜反応器 |
3.1 | MCH系 |
3.2 | アンモニア系 |
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第7節 | セラミック膜の適用例と最近の開発 |
1 | セラミック膜の特徴 |
1.1 | 有機膜との比較 |
1.2 | セラミック膜の構造 |
1.3 | セラミック膜の製造方法 |
1.4 | セラミック膜の特性 |
1.5 | セラミック膜によるろ過方法 |
2 | セラミック膜の適用 |
2.1 | 適用分野 |
2.2 | 膜選定条件と操作条件 |
2.3 | 食品分野への適用例 |
2.3.1 | 飲料ボトリングの除菌 |
2.3.2 | 発酵液の菌体分離及び清澄化 |
2.4 | 電子分野への適用例 |
3 | 最近の開発 |
3.1 | 新たなニーズ |
3.2 | DDR型ゼオライト膜の特徴 |
3.3 | DDR型ゼオライト膜の製造方法 |
3.4 | DDR型ゼオライト膜の特性 |
3.5 | DDR型ゼオライト膜の適用先 |
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第8節 | メタンの水蒸気改質反応への応用をめざした多孔質セラミックスの開発研究 |
1 | 水素分離用多孔質セラミックス膜 |
2 | 高温水蒸気雰囲気下におけるアモルファスシリカ膜の劣化挙動 |
3 | 耐水蒸気性の向上をめざした分離膜材料の合成開発 |
3.1 | メソポーラス中間層 |
3.2 | 分離活性層 |
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第9節 | 水素製造用触媒一体化PdAg膜モジュールの開発 |
1 | 触媒一体化モジュールのコンセプト・構造・動作原理 |
2 | MOCの性能評価 |
3 | 耐久劣化要因とその対策 |
4 | 対策実施による耐久性向上 |
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第10節 | 膜分離技術によるバイオブタノールの精製 |
1 | ブタノールについて |
1.1 | ブタノールの特徴 |
1.2 | ブタノール発酵 |
1.3 | ブタノールと水とを分ける技術 |
2 | 浸透気化膜分離法によるブタノールの濃縮 |
2.1 | ポリジメチルシロキサン分離膜 |
2.2 | シリカライト-1分離膜 |
2.3 | 浸透気化膜分離法の所要エネルギー |
2.4 | 発酵液成分の膜分離への影響 |
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第11節 | ポリイミド膜のバイオマスへの展開 |
1 | バイオ燃料製造プロセスとガス分離膜 |
2 | バイオメタン製造プロセスへのガス分離膜の適用 |
2.1 | バイオガス・バイオメタンについて |
2.2 | バイオメタン製造プロセス |
3 | ガス分離膜によるバイオガスのメタン濃縮 |
3.1 | ガス分離膜 |
3.2 | 膜モジュール |
3.3 | ガス分離膜によるバイオガスのメタン濃縮法 |
3.4 | ガス分離膜によるバイオガスのメタン濃縮の実際例 |
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第12節 | 新潟県におけるバイオ燃料実証事業とゼオライト膜脱水について |
1 | 事業の概要 |
1.1 | 実証事業の規模 |
1.2 | プラントの特徴 |
1.3 | バイオエタノール製造工程 |
2 | 膜脱水装置の概要 |
3 | 脱水工程 |
4 | メンテナンス状況 |
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第13節 | イオン伝導体分離膜による海水からのリチウム回収技術 |
1 | 海水リチウム資源回収システム |
2 | イオン液体によるリチウム分離回収技術 |
3 | イオン伝導体によるリチウム分離回収技術 |
4 | リチウム分離回収液からの炭酸リチウム精製 |