現在、地球環境保護の観点から、CO2排出量削減を主とした地球温暖化防止が21世紀の大きな課題の一つとなっている。
このため、各種空調システムにおいてもその大幅な効率向上により一次エネルギー消費量の低減が求められている。
従来、空調システムでは、圧縮式ヒートポンプ、吸収式ヒートポンプ(冷凍利用も含めて一般用語として用いる場合にはヒートポンプと呼ぶこととする)
を中心にその熱源機単体の性能向上が図られてきた。
その機器単体のこれ以上の性能改善は一般的には困難と考えられているが、機器単体でもまだ改善が可能な点がある。
それは、例えば、空調分野では、夏場には、除湿を行うことが多いが、除湿時の性能は、機器の年間性能の評価の中には含まれないため、
非常に低効率で運転されているにもかかわらず、どのような運転状況になっているのかは、ほとんど正確にはわかっていない。
著者らが実施した簡易なシミュレーションによる性能予測では、圧縮式ヒートポンプでは、冷却除湿に加えて、
再熱処理までを採用するとCOPが2〜3程度となり、大幅な性能低下が生じていることが明らかとされている。
デシカント空調システムは、媒体としてデシカント(除湿剤)を用いたシステムであり、除湿方法として採用されると、
一般的な空調システムが採用する冷却除湿を適用する必要がないことから冷えすぎた空気を供給することなく快適な温湿度の空気を室内に供給することが可能である。
また、動作原理が近い吸収式冷凍機と比較するとシステムが簡素となる。
しかし、単体として用いると、その性能は吸収式冷凍機と同程度かそれ以下であり、機器の耐久性、コスト高等の理由から未だ市場に普及してはいない。
ただし、空調システムとしてではなく、家庭用のコンパクトな除湿機は広く活用されるようになった。
一方で、いわゆる潜、顕熱分離空調を可能とするため、圧縮式ヒートポンプとの複合システムや完全に機器同士を一体化させたハイブリッド型のシステムが登場している。
この場合には、デシカント空調システム側で、潜熱を顕熱に変換できるため、圧縮式のヒートポンプで冷却除湿や再熱処理を行う必要がなくなり、
システムの効率を5割程度も大幅にアップすることが可能な報告もあるほどである。
いずれにしてもデシカント空調システムは、活用方法によっては省エネルギーに対して大きなポテンシャルを有している機器であることは言うまでもない。
しかし、その動作原理は難解で一般の方が理解するのは容易ではないし、専門家から見ると省エネルギーには程遠いシステムが世の中に平然と出回っていることも事実である。
そこで、まずはデシカント空調システムに必要不可欠となるデシカントの役割や空気の扱い方等の基礎的事項について述べるとともに、デシカント空調システムのシステム構成を説明する。
そして、シミュレーションによりその性能を明らかとする。
同時に最新のデシカントやシステムの研究開発状況から、具体的な活用事例までは幅広く本書で紹介していく。
本書がデシカント空調システムの理解の一助となれば幸いである。
(「齋藤潔」はじめにより抜粋一部変更 )
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序 デシカント空調システムの特徴 |
1 | 湿り空気の取扱い |
1.1 | 2 成分気体としての取扱い |
1.2 | 絶対湿度 |
1.3 | 相対湿度 |
1.4 | 湿り空気の比エンタルピー |
1.5 | 空気線図 |
2 | 各種空調機器の動作原理とデシカント空調システムの位置づけ |
2.1 | 圧縮式ヒートポンプ |
2.2 | 吸収式ヒートポンプ |
2.3 | 吸着式ヒートポンプ |
2.4 | デシカント空調システムの位置づけ |
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<第1部 基礎理論> |
第1章 | 固体式デシカント空調システムの基礎 |
1 | デシカントによる除湿、再生作用 |
1.1 | デシカント(除湿剤)について |
1.2 | 吸着作用 |
1.3 | デシカントローター |
2 | 湿り空気の状態変化 |
2.1 | 加熱、冷却作用 |
2.2 | 蒸発冷却 |
2.3 | デシカントによる除湿・再生 |
3 | デシカント空調システム |
3.1 | デシカント基本除湿システム |
3.2 | デシカント除湿空調システム |
3.2.1 | システム構成とフロー |
3.2.2 | システム特性 |
3.3 | デシカント除湿冷房システム |
3.3.1 | システム構成とフロー |
3.3.2 | システム特性 |
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第2章 | 固体式デシカント空調システムのシミュレーション技術 |
1 | 記号 |
2 | 解析対象 |
3 | 数式モデル |
3.1 | 吸着剤壁側 |
3.2 | 空気流路側 |
3.3 | 境界条件 |
3.4 | 解析手法 |
4 | 実験 |
4.1 | 実験装置 |
4.2 | 計測 |
4.3 | 評価方法 |
4.4 | 実験条件 |
5 | 結果 |
5.1 | 再生空気入口温度の影響 |
5.2 | 空気風速の影響 |
5.3 | デシカントローター厚さの影響 |
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第3章 | 液式デシカント空調システムの基礎 |
1 | 溶液の性質 |
2 | 基本的なシステム |
3 | 接触器 |
4 | ハイブリッドシステム |
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第4章 | 液式デシカント空調システムのシミュレーション事例 |
1 | 対象とするシステム |
2 | 数理モデル |
3 | 計算結果の例 |
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<第2部 最新技術> |
第5章 | 吸着材料 |
第1節 | 高分子収着剤 |
1 | 高分子収着剤の特徴 |
2 | 高分子収着剤を使用した様々なデシカント空調用素子 |
2.1 | 高分子収着剤ローター |
2.2 | ブロック型収着剤素子 |
2.3 | 金属板担持型収着剤素子 |
2.4 | 光熱変換型収着剤素子 |
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第2節 | メソポーラスシリカ |
1 | 概要 |
2 | メソポーラスシリカの水蒸気吸着・脱着の平衡特性 |
3 | メソポーラスシリカの水蒸気吸着・脱着の動特性 |
4 | 氷点下における水蒸気吸着・脱着特性 |
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第3節 | ハスクレイ |
1 | 粘土系材料における水蒸気吸着性能 |
1.1 | アロフェン・イモゴライトとは |
1.2 | アロフェン・イモゴライトの構造モデル |
1.3 | アロフェン・イモゴライトの水蒸気吸着性能 |
2 | ハスクレイの合成と構造 |
2.1 | ハスクレイの合成方法 |
2.1.1 | ハスクレイの合成 |
2.1.2 | ハスクレイ前駆体の合成 |
2.2 | ハスクレイの構造 |
2.2.1 | 粉末X線回折 |
2.2.2 | NMR測定 |
3 | ハスクレイの性質 |
3.1 | ハスクレイの気体吸着性能 |
3.1.1 | ハスクレイの水蒸気吸着性能 |
3.1.2 | 窒素吸着 |
3.2 | ハスクレイの耐熱性 |
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第4節 | ゼオライト系吸着材 AQSOA(R) |
1 | ゼオライト系吸着材AQSOA(R)の概要 |
2 | AQSOA(R)の特性 |
3 | 除湿用途への適用 |
3.1 | デシカントローター |
3.2 | 吸着熱交換器 |
3.3 | 吸着ペレット |
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第5節 | メタルシリケートロータ |
1 | メタルシリケートロータの製法 |
2 | メタルシリケートロータと塩化リチウム乾式ロータの性能比較 |
3 | デシカントロータの理想的吸着特性の検討 |
3.1 | 均質な特性と幅広い吸着特性 |
3.2 | 理想的な吸着等温線形状の検討 |
3.3 | 実使用されているロータ型除湿機で採用されている吸着材 |
4 | メタルシリケートロータの最適化 |
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第6章 | 構成要素 |
第1節 | 固体式用ロータ型除湿機 |
1 | ロータ型除湿機 |
2 | ハニカムロータ型除湿機の原理と構造 |
3 | 使用方法による性能向上について |
4 | 再生温度と除湿能率 |
5 | 除湿限界とシステムの工夫による除湿能力向上の可能性 |
6 | ロータ型除湿機の飛躍的高性能化の可能性 |
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第2節 | 熱交換器一体型ヒートポンプデシカント外調機 |
1 | 従来のデシカント空調機の課題 |
2 | 直接冷却吸着、直接加熱再生 |
3 | 熱交換器一体型デシカントデバイス |
4 | 熱交換器一体型ヒートポンプデシカント外調機の作動原理 |
5 | 熱交換器一体型ヒートポンプデシカント外調機仕様 |
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第3節 | バッチ式、流動層式除湿機 |
1 | バッチ式除湿機 |
1.1 | 概要 |
1.2 | 直方形収着剤ブロックを用いた空調システム |
1.3 | バッチ式システムの展開に向けて |
2 | 流動層式除湿機 |
2.1 | 概説 |
2.2 | 高分子収着剤粒子を用いた流動層システム |
2.3 | バッチ式流動層システム |
2.4 | 二槽循環式流動層 |
2.5 | ビーズをコアとした粒子を用いたシステム |
2.6 | 流動層式システムの展開に向けて |
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第4節 | 液式用流下液膜式除湿器 |
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第5節 | 気化式冷却器 |
1 | 気化式冷却器の動作理論と原理 |
1.1 | 気化式冷却器の理論 |
1.2 | 動作原理 |
2 | 気化式冷却器の種類 |
2.1 | ハニカムエレメント式 |
2.2 | エアワッシャー式 |
2.3 | 水スプレー式 |
2.4 | 毛細管式 |
3 | 気化式冷却器の性能向上とその方策 |
4 | 気化式冷却器の歴史 |
5 | デシカント空調システムにおける気化式加湿器の役割 |
6 | 気化式冷却器のその他の利用法 |
6.1 | 植物工場 温室、畜産、養鶏等の冷房 |
6.2 | ガスタービン吸気の冷却 |
6.3 | 空冷コンデンサーの予冷却 |
6.4 | 塗装ブースの加湿冷却 |
7 | ハニカムクーラーの使用上の留意点 |
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第6節 | エンタルピーホイール |
1 | エンタルピーホイール(以下全熱交換器)とは |
2 | 全熱交換器の原理と構造 |
3 | 全熱交換器の省エネルギー効果 |
4 | 全熱交換器の性能 |
5 | 潜熱交換機能を付加する方法 |
6 | 顕熱交換器の潜熱交換 |
7 | イオン吸着式全熱交換器 |
7.1 | 全熱交換器の異臭発生問題 |
7.2 | 多孔質吸着材の臭気に対する現象 |
7.3 | イオン交換樹脂の吸・脱湿原理と臭気移行が少ない理由 |
7.4 | 臭気移行率 |
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第7章 | 活用事例 |
第1節 | デシカント空調システムの活用分野 |
1 | 食品スーパー |
2 | 病院 |
3 | 映画館 |
4 | 温水プール |
5 | 食品工場 |
6 | 溶銑炉(キュポラ) |
7 | 老健施設 |
8 | 教育施設 |
9 | 農産物などの乾燥 |
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第2節 | 再生可能エネルギーの活用 |
1 | 太陽熱、太陽光、風力を利用したデシカント空調システム |
1.1 | システムの概要 |
1.2 | 実証試験の概要 |
1.3 | 試験結果 |
2 | 太陽熱を利用した小型デシカントユニット |
2.1 | 小型デシカントユニットの概要 |
2.2 | 実証試験の概要 |
2.3 | 試験結果 |
3 | 太陽熱を利用した除湿・冷却システム |
3.1 | システムの概要 |
3.2 | 試験結果 |
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第3節 | 排熱の活用 |
1 | 産業別の排熱 |
1.1 | 化学工業 |
1.2 | 鉄鋼業 |
1.3 | 食料品製造業・食品加工品製造業 |
1.4 | 輸送用機器器具製造業 |
1.5 | パルプ・紙・紙加工品製造業 |
2 | デシカントロータの選定 |
3 | 工業炉の排熱を利用した燃焼空気除湿システム |
4 | 食品工場の排熱を利用した除湿(乾燥)システム |
5 | 氷蓄熱空調システムの排熱を利用した空調システム |
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第4節 | 農業分野での活用 |
1 | 農作物の環境管理 |
2 | 温湿度調整システムの検討 |
3 | デシカント剤の低温再生実験 |
3.1 | 実験装置 |
3.2 | 実験条件 |
3.3 | 実験結果 |
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第5節 | 稚内層珪質頁岩デシカントローターを用いた潜顕熱分離空調の実例 |
1 | 吸着材としての稚内層珪質頁岩の特徴 |
2 | 稚内層珪質頁岩を含有するデシカントハニカムローターの製作 |
2.1 | WSS配合抄紙 |
2.2 | WSSデシカントローターの製作 |
3 | デシカント換気ユニットの開発 |
4 | 冷房実証試験 |
4.1 | 実証試験の概要 |
4.2 | ビル用マルチエアコンコンディショナー |
4.3 | 冷房運転条件 |
4.4 | 実証試験結果 |
4.4.1 | デシカント換気ユニットの性能と室内温湿度環境 |
4.4.2 | 除去熱量と消費電力量の比較と潜顕熱分離空調の省エネルギー性 |
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第6節 | ハイブリッド空調システム |
1 | 開発システム概要 |
2 | 実証試験概要 |
2.1 | 夏季試験結果 |
2.1.1 | 室内環境 |
2.1.2 | エネルギー消費量 |
2.2 | 冬季試験結果 |
2.2.1 | 室内環境 |
2.2.2 | エネルギー消費量 |
3 | 省エネ建築物(グリーンビルディング)設置時の性能予測 |
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第7節 | ノンフロストシステム |
1 | デシカントロータの吸脱着特性 |
1.1 | シミュレーションモデル |
1.2 | 等価熱伝導率実験 |
1.3 | 実験結果と比較 |
1.3.1 | 空気流速の影響 |
1.3.2 | 供給空気温度の影響 |
1.4 | デシカントロータ性能予測用物質移動モデル |
1.5 | まとめ |
2 | ハイブリッドエアコンシステムの夏季ノンドレイン運転 |
2.1 | 実験装置と方法 |
2.1.1 | 実験装置の概要 |
2.1.2 | 実験方法 |
2.2 | 実測結果と考察 |
2.2.1 | ハイブリッド化による効果の検証 |
2.2.2 | 2AK熱交換器試験 |
2.2.3 | プレクール熱交換器追加試験 |
2.3 | まとめ |
3 | ハイブリッドエアコンシステムの冬季ノンフロスト運転 |
3.1 | 実験装置 |
3.2 | 実験結果 |
3.3 | シミュレーションによるハイブリッドサイクルの性能評価 |
3.4 | 潜顕熱供給量制御運転 |
3.5 | 結論 |
4 | ハイブリッドシステムのAPF評価方法の提案 |
4.1 | 現在のAPF評価法 |
4.2 | 提案APF評価法 |
4.2.1 | 気象条件 |
4.2.2 | 空調対象床面積の計算 |
4.2.3 | 熱負荷計算 |
4.2.4 | 温湿度の領域分け |
4.2.5 | 消費電力計算 |
4.3 | 計算結果 |
4.4 | APFまとめ |
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第8節 | 低露点での活用 |
1 | 露点温度別産業分野利用形態 |
2 | ドライクリーンルームの設計概要 |
3 | ドライルーム使用上の留意点 |
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第9節 | 老人ホーム、病院でのリキッドの活用 |
1 | 活用の現状 |
1.1 | 屋内環境改善 |
1.1.1 | 外気処理の必要性 |
1.1.2 | 外気処理空気の館内処理と効果 |
1.1.3 | 潜・顕熱の拡散 |
1.1.4 | 除湿冷房 |
1.1.5 | 加湿暖房 |
1.1.6 | 臭気除去 |
1.1.7 | 安全環境維持装置として |
1.2 | エネルギー改善機器として |
1.2.1 | エネルギー削減要素 |
1.2.2 | 再生可能エネルギーの利用 |
1.2.3 | 保守管理 |
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第10節 | オフィスビルでのデシカント空調の活用 |
1 | デシカント空調を導入したオフィスビルの概要 |
2 | 常温再生型デシカント空調機の概要 |
3 | 常温再生域におけるデシカントロータの性能評価 |
3.1 | 試験設備概要 |
3.2 | ロータ最適回転数の評価 |
3.3 | ロータ除湿性能の評価 |
3.4 | ロータ加湿性能の評価 |
4 | オフィスビルにおける常温再生型デシカント空調機の性能評価 |
4.1 | 評価方法 |
4.2 | 除湿性能の評価 |
4.3 | 空調処理熱量の評価 |
4.4 | 空調機廻り及び室内の温湿度推移 |
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第11節 | 住宅でのデシカント空調の活用 |
1 | 住宅で用いられるデシカント空調機 |
1.1 | 除湿機 |
1.2 | 加湿器 |
1.3 | 調湿外調機 |
2 | 熱交換器一体型ヒートポンプデシカント外調機の実証評価 |
2.1 | 空調・換気設備、計測システム概要 |
2.2 | 室内環境計測結果 |
2.3 | エネルギー消費量計測結果 |
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第12節 | 低温環境下におけるデシカントの活用 |
1 | 冷凍冷蔵倉庫での活用事例 |
2 | スケート場での活用事例 |
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第13節 | スーパーマーケットへの適用 |
1 | 代表的システム |
2 | 実施例(店舗) |
3 | 実施例(バックヤード) |
4 | 低温熱駆動Solid DesiccantとLiquid Desiccant |
5 | クリーン効果 |
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第8章 | デシカント空調システムの今後の展開 |
第1節 | 新エネルギー戦略としてのZEB、スマート化における役割 |
1 | 大きな軌道修正を求められた我が国のエネルギー戦略 |
2 | ゼロ・エネルギー・ビルに向けた動き |
3 | デシカント空調の位置づけ、役割 |
4 | ZEBを目指した都市型超高層オフィスビルへの適用例 |
5 | デシカント空調の今後への期待 |
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第2節 | 次世代自動車への適用 |
1 | エンジンからモーターへ |
2 | 快適・健康空調について |
3 | 特色あるデシカント調湿技術の紹介 |
4 | 次世代自動車向けデシカント装置について |
4.1 | 100%電気自動車(コミューター)向けデシカント調湿装置 |
4.2 | 100%電気自動車(中長距離用)向けデシカント調湿装置 |
4.3 | 低環境負荷型発電機を搭載する電気自動車向けデシカント調湿装置 |