地球温暖化との関連から“二酸化炭素”を取り巻く社会情勢は日ごとに厳しさを増している。
短期的には地中や海底に隔離・貯留することにより、大気中の二酸化炭素を削減することができるだろう。
しかし、それらの技術では、二酸化炭素が存在する場所を移したことに過ぎず、根本的な解決とはいい難い。
また、隔離場所まで移送するためのエネルギーコストや貯留中の安全確保などが副次的な問題として浮かび上がってくる。
やはり、環境中の二酸化炭素を本質的かつ安全に減らしたければ、第一には排出しないこと、そして第二には、二酸化炭素を他の物質へと変換すること(二酸化炭素の化学的固定)が必須である。
また、その一方で、有用な化学製品の根本的な原料である化石資源の枯渇が刻々と近づいている。
現代の生活水準や社会基盤を維持しながら、将来的にも持続可能な産業と社会を築くには、化石資源に頼らない化学工業の確立が求められる。
本書では、現代におけるこれら二つの大問題を同時に解決できると期待される、二酸化炭素の有用物質への化学的変換に関する近年の研究・開発事例を集めて紹介する。
二酸化炭素の化学的変換の技術は「秒進分歩」と言えるほどの速さでめざましい進歩を遂げており、二酸化炭素を対象とする研究・開発を手がける研究者・技術者は、常に最新の情報を入手しておくべきである。
本書が、そのような方々の助けとなって、ご活用いただければ幸いである。
さらには、二酸化炭素の削減等の対策に迫られていながら未だに手を着けられずにいる方々が、めざすべき方向を定めるためにも、是非、本書を参考にしていただきたい。
(杉本 裕 「はじめに」より抜粋)
| |
第1章 | 二酸化炭素を用いた炭化水素・アルコールの合成・製造技術 |
第1節 | 二酸化炭素を用いた化学品製造における触媒技術 |
はじめに |
1 | 改質反応 |
1.1 | CO2によるメタン改質 |
1.2 | 逆シフト反応によるCO2の還元 |
2 | 二酸化炭素を用いた炭化水素の合成 |
2.1 | CO2からメタンの合成 |
2.2 | Power to Gas |
2.3 | 二酸化炭素からLPGの合成 |
2.4 | 二酸化炭素によるFT合成 |
2.5 | 二酸化炭素から芳香族の合成 |
3 | 二酸化炭素を用いたメタノールの合成 |
3.1 | メタノール合成 |
3.2 | CO2によるメタノール合成触媒 |
3.3 | CO2の利用によるメタノールプラントの収率の向上 |
3.4 | 液相懸濁層によるメタノールの合成 |
4 | 二酸化炭素によるエタノールの合成 |
おわりに |
|
第2節 | 電場印加触媒反応によるメタンと二酸化炭素からのC2炭化水素の合成 |
はじめに |
1 | 従来のCO2-OCMにおける最近の動向 |
2 | 電場印加触媒反応によるCO2-OCM |
おわりに |
|
第3節 | 膜電極接合体を用いる二酸化炭素の電気化学的固定 |
はじめに |
1 | 膜電極接合体を用いたCO2電解還元と硫酸水溶液中での比較 |
2 | 計算機化学を用いた反応解析 |
2.1 | 計算方法 |
2.2 | CO2単独吸着 |
2.3 | CO2 + H2吸着 |
2.4 | CO2 + H2 + H2O吸着 |
2.5 | 計算機化学を用いた反応解析のまとめ |
3 | 膜電極接合体にPt/CおよびPt-Ru/Cを用いた際のCO2電解還元ボルタモグラム |
4 | 生成物の分析 |
5 | CO2電解還元の電極電位依存性 |
6 | CO2電解還元生成物の電極表面吸着効果 |
おわりに |
|
第4節 | 二酸化炭素を利用した酸化チタン系光触媒による化成品合成 |
緒言 |
1 | ベンゼンの部分酸化 |
2 | フェノールの部分酸化 |
3 | シクロヘキサンの部分酸化 |
おわりに |
|
第2章 | 二酸化炭素を用いたエーテル・アルデヒド・カルボン酸の合成・製造技術 |
第1節 | 二酸化炭素の水素化によるジメチルエーテル直接合成とそれに用いる触媒の開発 |
はじめに |
1 | DMEの一般的な製造法(合成ガス、一酸化炭素からの合成法) |
2 | 二酸化炭素からのDME製造に関して |
3 | ゾル─ゲル法で調製したCu系Al2O3触媒に関して、およびCO2からのDME製造に対する改良 |
おわりに |
|
第2節 | 二酸化炭素と海水からのホルムアルデヒド合成 |
はじめに |
1 | 電極を用いた電解還元の研究例 |
2 | 電極を用いた電解還元における生成物の選択性 |
3 | ダイヤモンド電極を用いた二酸化炭素の電解還元 |
おわりに |
|
第3節 | 二酸化炭素をC1炭素源とするキラルRh錯体によるオレフィンの触媒的不斉カルボキシル化反応 |
はじめに |
1 | 遷移金属錯体を用いる二酸化炭素固定化反応 |
1.1 | 遷移金属錯体に対する二酸化炭素の配位様式 |
1.2 | アルキンを基質とするカルボキシル化反応 |
1.3 | アルケンを基質とするカルボキシル化反応 |
2 | 不斉触媒的二酸化炭素固定化反応 |
3 | キラルRh錯体による二酸化炭素を用いる触媒的不斉カルボキシル化反応の開発 |
4 | スチレン類のロジウム触媒カルボキシル化反応の開発 |
4.1 | 基質適応範囲 |
4.2 | 反応メカニズム |
5 | 共役カルボニル化合物の触媒的カルボキシル化反応の開発 |
5.1 | 基質適応範囲 |
6 | 不斉触媒的カルボキシル化反応の開発 |
6.1 | 不斉誘起メカニズム |
7 | まとめと展望 |
|
第4節 | 銀触媒によるアルキンの活性化を基軸とする複素環化合物合成 |
はじめに |
1 | プロパルギルアミンに対する二酸化炭素とヨード基の連続的導入反応 |
1.1 | 反応条件の最適化 |
1.2 | 種々基質への適用 |
2 | 銀触媒によるイソシアナート中間体を経る複素環化合物合成 |
2.1 | 反応メカニズムに関する考察 |
2.1.1 | 同位体標識実験 |
2.1.2 | 時間分解赤外分光法による赤外吸収スペクトルの測定 |
2.2 | 4‐ヒドロキシキノリン‐2(1H)‐オン誘導体9の合成 |
2.3 | テトラミン酸合成への適用 |
3 | 銀触媒を用いるエノラートを求核種とする炭素‐炭素結合形成反応 |
3.1 | エノラートを求核種とするラクトン誘導体合成 |
3.1.1 | 反応条件の検討 |
3.1.2 | 種々の基質への展開 |
3.2 | エノラートを求核種とするジヒドロイソベンゾフラン誘導体合成 |
3.2.1 | 反応条件の最適化 |
3.2.2 | 種々の基質への適用 |
おわりに |
|
第5節 | 遷移金属錯体触媒を利用した炭素-炭素結合形成を伴う二酸化炭素固定化反応の開発 |
はじめに |
1 | ニッケル触媒を用いる塩化アリールのカルボキシル化反応 |
2 | コバルト触媒を用いる酢酸プロパルギルのカルボキシル化反応 |
3 | ニッケル触媒を用いるアルキンのダブルカルボキシル化反応 |
4 | 銅触媒を用いるアルキンのヒドロカルボキシル化反応 |
5 | 銅触媒とシリルボランを用いるアルキンのシラカルボキシル化反応 |
おわりに |
|
第6節 | 共役ジエンを使った不飽和カルボン酸合成 |
はじめに |
1 | パラジウム触媒を用いた共役ジエンと二酸化炭素の反応 |
1.1 | 共役ジエンの二量化を介したラクトン合成 |
2 | ニッケルを促進剤とする共役ジエンと二酸化炭素の反応 |
2.1 | 共役ジエンと二酸化炭素によるシクロペンタンカルボン酸合成 |
2.2 | 共役ジエンと二酸化炭素による不飽和カルボン酸の合成 |
2.3 | 共役ジエンと二酸化炭素の還元的カップリングによる不飽和カルボン酸合成 |
2.4 | 二酸化炭素、共役ジエン、アルキン、有機亜鉛の4成分カップリング反応 |
3 | 金属触媒非存在下での二酸化炭素、共役ジエン、有機亜鉛によるカップリング反応 |
おわりに |
|
第7節 | 二酸化炭素を一炭素源として用いるα-アミノ酸の化学合成 |
はじめに |
1 | フッ化物イオンを用いたアミノスズからのカルボキシル化 |
2 | イミン前駆体からのワンポット反応の開発 |
3 | アルデヒド、スルホンアミド、およびCO2からのα-アミノ酸合成 |
4 | ケイ素中間体を経るワンポット反応の検討 |
5 | 光学活性α-アミノ酸の触媒的不斉合成 |
6 | マンガンを用いるα-アミノ酸合成 |
おわりに |
|
第3章 | 二酸化炭素を用いた炭酸エステル・ウレタン・尿素の合成・製造技術 |
第1節 | 二酸化炭素を原料とした炭酸ジアルキル類の合成技術及び動向 |
はじめに |
1 | 炭酸エステル類の利用用途 |
2 | 現在の炭酸ジアルキル合成法 |
3 | 二酸化炭素とメタノールからの炭酸ジメチル合成法 -脱水剤なし- |
4 | 二酸化炭素からの炭酸ジメチル合成の高収率化 -脱水剤の利用- |
5 | 再生不可能な脱水剤 |
6 | 再生可能な脱水剤 |
6.1 | 脱水剤アセタール |
6.2 | 脱水剤モレキュラーシーブ |
6.3 | 高活性触媒の開発 |
6.4 | アセタール骨格の影響 |
7 | 次世代脱水剤の開発動向 |
おわりに |
|
第2節 | 固体触媒を用いたグリセリンと二酸化炭素からグリセリンカーボネートの一段合成 |
1 | BDF 製造の副産物としてのグリセリン |
2 | グリセリンのグリセリンカーボネートへの変換 |
3 | グリセリンカーボネートの合成に向けた炭酸エステルの合成 |
3.1 | 触媒開発 |
3.2 | 脱水剤の添加 |
3.3 | グリセリンとDMCの反応によるグリセリンカーボネートの合成 |
4 | グリセリンカーボネートの一段合成に向けた挑戦 |
4.1 | グリセリンカーボネートのワンポット合成 |
4.2 | カップリング剤としてプロピレンオキシドの利用 |
4.3 | 触媒の開発 |
5 | まとめ |
|
第3節 | 酸化セリウムを触媒とする二酸化炭素とアルコール類およびアミン類の反応 |
はじめに |
1 | 二酸化炭素とメタノールからの炭酸ジメチル合成 |
2 | 二酸化炭素とメタノールからの炭酸ジメチル合成反応の平衡制約とH2O除去 |
3 | 脱水剤2-シアノピリジン水和反応の特徴 |
4 | 酸化セリウムの酸・塩基両機能性とDMC合成反応 |
5 | 2-シアノピリジンの助触媒としての機能発現 |
6 | 酸化セリウム触媒と2-シアノピリジンを用いたアルコールと二酸化炭素からの有機カーボネート合成 |
7 | 酸化セリウム触媒を用いた二酸化炭素を用いたカーバメートおよび尿素類の合成 |
8 | 酸化セリウムの特徴を活かす二酸化炭素、アルコール、アミンからのカーバメート合成 |
おわりに |
|
第4節 | 二酸化炭素を用いる不飽和アミンの環化カルボキシル化反応による環状ウレタン合成 |
1 | はじめに:二酸化炭素とアミンから生成するカルバミン酸類 |
2 | プロパルギルアミンの環化カルボキシル化反応による五員環ウレタン合成 |
3 | アレニルメチルアミンの環化カルボキシル化反応による五員環ウレタン合成 |
4 | 今後の展望 |
|
第5節 | 二酸化炭素を原料とする芳香族ウレタンの合成 |
はじめに |
1 | ウレタン類の用途 |
2 | 芳香族ウレタン合成法 |
2.1 | ホスゲン法 |
2.2 | 一酸化炭素法 |
2.3 | 尿素法 |
2.4 | 炭酸エステル法 |
3 | 二酸化炭素法 |
4 | 二酸化炭素からの芳香族ウレタン合成 |
4.1 | スズアルコキシド錯体の利用 |
4.2 | チタンアルコキシド錯体の利用 |
おわりに |
|
第4章 | 二酸化炭素を用いたポリカーボネートの合成・製造技術 |
第1節 | 二酸化炭素由来脂肪族ポリカーボネートとその研究開発動向 |
1 | 二酸化炭素由来脂肪族ポリカーボネート |
2 | 二酸化炭素・エポキシド共重合用触媒の探索 |
3 | 二酸化炭素由来脂肪族ポリカーボネートの基本的性質と用途展開 |
3.1 | 二酸化炭素由来脂肪族ポリカーボネートの諸物性概観 |
3.2 | 二酸化炭素由来脂肪族ポリカーボネートの光学特性 |
3.3 | 二酸化炭素由来脂肪族ポリカーボネートの熱物性 |
4 | 側鎖官能基の導入による二酸化炭素由来脂肪族ポリカーボネートの物性向上 |
4.1 | 親水性・水溶性の付与 |
4.2 | 導電性の付与 |
4.3 | 側鎖反応性の付与 |
5 | 今後の課題・展望 |
|
第2節 | 二酸化炭素を原料利用した固体高分子電解質の研究開発 |
はじめに |
1 | ポリカーボネート型SPEのイオン伝導性 |
2 | ポリカーボネート型SPE無機フィラーコンポジット |
おわりに |
|
第3節 | 二酸化炭素を直接活性化利用する炭酸エステル・芳香族ポリカーボネート製造技術 |
はじめに |
1 | 二酸化炭素をカルボニル源とする技術 |
1.1 | カルボニル基の役割 |
2 | ポリカーボネート製造方法の展開 |
2.1 | 界面重合法ポリカーボネート |
2.2 | メルト法ポリカーボネート |
3 | 旭化成が開発したポリカーボネート製造プロセス |
3.1 | 副生二酸化炭素を原料とする新規な非ホスゲン法ポリカーボネート製造プロセス |
3.2 | 二酸化炭素を直接活性化利用する炭酸エステル製造プロセス(旭化成DRC法) |
3.2.1 | 二酸化炭素の直接活性化 |
3.2.2 | DRCを中間体とする、新しいPC製造プロセス |
3.2.3 | 二酸化炭素を直接活性化利用する炭酸エステル製造プロセス(旭化成DRC法)」の特徴 |
3.2.4 | 重力利用・無撹拌重合プロセス |
おわりに |
|
第5章 | 二酸化炭素を用いた各種ポリマーの合成・製造技術 |
第1節 | 二酸化炭素から得られる五員環カーボナートを利用する高分子合成 |
はじめに |
1 | 高分子合成に向けたCO2とエポキシドの反応による五員環カーボナートの合成 |
2 | CO2を利用する五員環カーボナート構造をもつポリマーの合成 |
3 | 五員環カーボナートとアミンの反応を利用するポリウレタン類の合成 |
4 | まとめ |
|
第2節 | 藍藻を使った二酸化炭素と太陽光からのポリヒドロキシ酪酸の高効率合成 |
はじめに |
1 | 基本的な藍藻の種類 |
2 | 藍藻の遺伝子導入 |
3 | 藍藻を用いたポリヒドロキシ酪酸を始めとするポリマー合成 |
3.1 | 内在性PHAの生合成 |
3.2 | PCC7002でのPHA合成 |
3.3 | NphT7による代謝経路改変によるPHA合成 |
3.4 | 挿入変異によるPHA生産性の増大 |
4 | 誘導性プロモーター |
5 | 今後の研究の方向性 |
|
第3節 | イオン液体触媒を用いた脂肪族ジアミンと二酸化炭素とからのポリウレアの合成 |
1 | ポリウレアについて |
2 | 二酸化炭素とイオン液体 |
3 | 二酸化炭素とアミンとの反応によるウレア(尿素)化合物の生成 |
4 | イオン液体を用いた二酸化炭素と脂肪族ジアミンとからのポリウレアの合成 |
4.1 | イオン液体のみを用いるポリウレアの合成 |
4.2 | イオン液体とセシウム塩を用いるポリウレアの合成 |
5 | まとめ |
|
第4節 | 二酸化炭素とブタジエンによるポリラクトンの合成 |
はじめに |
1 | アルケンと二酸化炭素の共重合によるポリエステル合成 |
2 | なぜ二酸化炭素とアルケンは直接共重合しないのか? |
3 | 二酸化炭素とジエンからなるラクトン中間体の利用 |
おわりに |