<講演要旨>
技術英語とは、技術情報の伝達に特化した英語で、別名を「英文テクニカルライティング」といいます。素早く、適切に、正確に伝達することを目的とします。元々は英語圏の産業界で発達したライティングの手法で、「シンプルでわかりやすい」ということが大前提。英語が国際語として認知された今、ネイティブ・非ネイティブの区別なく、確実に情報のやりとりができる手法として注目されています。
技術文書には仕様書・指示書・解説書といった様々なものがあり、それぞれの目的(すなわち想定読者)によってスタイルが異なります。しかしどんなスタイルであっても「わかりやすさ」が最優先です。簡単な英語を適切なスタイルで使い、確実に情報を伝えるのが技術英語です。
英語が苦手な方には、国際語としての英語を身につけるには最低限どのような能力が必要であるかを知り、基礎から効率よく学ぶきっかけとなるでしょう。英語が得意な方には、英語力以外の面で、技術情報の伝達のために必要とされるポイントに気付いていただけるでしょう。「万人のための情報伝達」を目指す英語だからこそ、現在の英語力に関係なく、学ぶことで得られるものが必ずあります。
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<プログラム>
1.基礎の基礎: 通じる英語って何?
「通じる英語」の最低条件を明らかにします。「自然な英語」「カッコいい英語」を最初から目指すのではなく、まず確実に身に付けるべきことは何かを把握します。
例えば…
"Not a single word was uttered from anybody." こんなカッコつけた表現にあこがれてしまう気持ちもわかりますが、情報伝達の効率を考えたらどうでしょう?同じことは、"Nobody spoke." のたった2語で言えます。楽しみの英語と、実務の英語は分けて考えなければいけません。
2.Clear, Concise, Correct - テクニカルライティングの3つのC
「最短の時間で正しく伝える」ためには、「Clear, Concise, Correct―はっきり、短く、正しく」の3つの要素が不可欠です。3つの要素の重要性を、事例に基づいて体感します。
- Clear: 情報は具体化してから英語にする。また、人によって解釈が異ならないよう、配慮する。
- Concise: 必要最小限の語数で、必要なことはすべて提示する。
- Correct: 表現のミスや誤訳に気付かず、意味不明になっていたり違う意味になっていたりする英文がよくある。英訳する上での間違いの傾向に気付き、回避できるよう日頃から心がける。
3.最小限主義 - 無駄を省き、必要なことのみを英語化する
原文中の無駄を省き、少ない語数で英語化する方法を学びます。語数が少なければミスも減ることから、正しく伝えることにもつながります。
例えば…
「新モデルには合計5つの新機能が追加されています。」
直訳: "A total of five new functions have been added to the new model."
整理した訳: "The new model has five new functions."
「合計」は無くても意味が変わりません。「新機能」が「追加」されるのは当たり前なので、「新」と「追加」はどちらかだけで構いません。よくあるhaveを使った構文にすることで、現在完了の必要もなくなります。結果、同じ内容をより簡単な英語で、ほぼ半分の語数で伝えることができます。
4.動詞主義 - 動詞を積極的に使い、文章をわかりやすくする
「初期化を行う」「調整を実行する」「改善を実現する」―「初期化する」「調整する」「改善する」と表現しても内容は変わりません。「名詞+情報量の少ない動詞」の組み合わせを、「情報量の多い動詞1語」に変換すれば、文章は短く勢いのあるものになります。英語の場合、さらにその効果は顕著です。
例えば…
「操作開始に先立ち、設定の初期化を行う。」
直訳: "Prior to the start of operation, perform initialization of the settings."
整理した訳: "Before starting operation, initialize the settings."
ただし、英語の動詞を扱う際には、日本語の動詞とは違った注意点があります。用法を間違えば、正しい情報は伝わりません。他動詞・自動詞の区別を始め、用法上の注意点を整理して、自信を持って動詞を使うためのポイントを解説します。
5.能動態主義 - 無意味な受け身はトラブルのもと
受動態は、もともと「遠回しな表現」です。「最短の時間ではっきり伝える」というテクニカルライティングには、馴染みません。上の「動詞主義」のところの例文でも、受け身表現の日本語が、最終的には能動態の英語になっています。
日本語は、受動態と能動態の差が出にくい言語で、語順を保ったままの変換も可能です。英語では、受動態は明らかに回りくどく、語順の変化も避けられません。
また、受動態は構文が複雑なため、文法的なミスもしやすいものです。
例えば…
「DSPユニットによって信号処理が行われている間も、光学ヘッドから新規データが送られてくる」
直訳(誤訳): "While signal processing is performed by the DSP unit, new data is sent from the optical head."(時制の誤りにより、「信号処理はDSPユニットによって行われるが、新規データは光学ヘッドから送られる」となっている)
受動態のまま誤りを修正: "While signal processing is being performed by the DSP unit, new data continues to be sent from the optical head."
整理した訳: "While the DSP unit is processing signals, the optical head keeps feeding new data."
元の日本語の形に関わらず、能動態で書けるものは能動態で書くというクセをまずつけること。こうした意識が、分かり易い英文につながります。
とはいえ、状況によっては、受動態でしか表現できない場合や、受動態の方が効果的な場合もあります。意図的に受動態を使うことも時には必要です。そのような場合の見極めについても解説します。
6.総合演習
最小限主義・動詞主義・能動態主義のすべてを意識した英文作成の演習を行います。
7.質疑応答(適宜)
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−名刺交換会−
セミナー終了後、ご希望の方はお残り頂き、講師と参加者間での名刺交換会を実施させて頂きます。
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