メルマガ 「いいテク・ニュース」 雑記帳 2014年 5月21日(Vol.123) 「ホトトギス」 ≫雑記帳トップへ
「ホトトギス」
ほととぎすあすはあの山こえて行かう
種田山頭火(たねだ さんとうか)
(1882-1940)
と福山雅治さんがDUNLOPの「エナセーブは進化する」のCMでつぶやいていたり、鳴
かないホトトギスをどうするのかで信長、秀吉、家康の三人の天下人の性格を言い表したり、
正岡子規のペンネーム「子規」はホトトギスのことであったりと多くの逸話があるホトトギス。
今回はそんなホトトギスについての豆知識をお届けします。
◎夏告げ鳥
♪卯の花のにおう垣根に時鳥早やも来鳴きて忍び音もらす夏は来ぬ♪
作詞 佐佐木信綱(ささき のぶつな)
(1872-1963)
と唱歌「夏は来ぬ」で歌われているように、ホトトギスは初夏5月に日本に飛来し、夏を告
げる鳥です。
古来から多くの文学に登場し、和歌や俳句の世界では雪月花と並ぶ夏を代表する風物とさ
れ、「初音」を待ちわびました。
『枕草子』ではホトトギスの初音を誰よりも早く聞こうと夜を徹して待つ様が描かれてい
ます。
ちなみに初音が待たれるのは鶯(ウグイス)とホトトギスだけです。
また、ひそかに鳴くのを「忍び音」といいます。
◎ホトトギスの異名
「テッペンカケタカ」「テッペンハゲタカ」「ホンゾンカケタカ」「特許許可局」「あちゃ
とてた(あちらへ飛んで行った)」などと聞きなし※されるホトトギスの声と姿が人々の表
現意欲を刺激するのか、文学の世界ではホトトギスは多彩に、またドラマチックに登場し
ます。
そのためか異名はたくさんあり、お馴染みなのは「時鳥」「子規」「不如帰」ですが他に
漢字で郭公、霍公、蜀魂、杜鵑、杜宇、田鵑とも書きます。
他には「あやめ鳥」「いもせ鳥」「うない鳥」「さなえ鳥」「夕かげ鳥」などたくさんの
異名があります。
※聞きなし、聞き做し(ききなし)は、動物の鳴き声、主に鳥のさえずりを人間の言葉
に、時には意味のある言語の言葉やフレーズに当てはめて憶えやすくしたもの。
◎鳴かぬホトトギス
有名な
「なかぬなら殺してしまへ時鳥 織田右府」(織田信長)
「鳴かずともなかして見せふ杜鵑 豊太閤」(豊臣秀吉)
「なかぬなら鳴まで待よ郭公 大權現様」(徳川家康)
この三人の天下人の句は本人が詠んだ川柳のように思われがちですが、実際は江戸時代後期
の平戸藩主、松浦清の随筆『甲子夜話』で鳴かないホトトギスにどう対応するか、その性格
をホトトギスの漢字も三人とも違って表現しています。
また他には
「鳴かぬなら自分が鳴かふ時鳥」(明智光秀)
「鳴け聞こう我が領分のほととぎす」(加藤清正)
また冒頭に引用した流浪の自由律の俳人、種田山頭火は
「鳴かぬなら鳴かないでよいほととぎす」
と詠み
織田信長の末裔で(元)フィギュアスケート選手の織田信成は
「鳴かぬならそれでいいじゃんホトトギス」
と詠んでいます。
なかなかそれぞれの性格を表現していて興味深いものがあります。
◎ホトトギスと托卵(たくらん)
ホトトギスは初夏に飛来し、9月頃まで低地から山地の笹薮のある林に棲み、ウグイスと
同じ場所にいることが多く、ウグイスを托卵相手(宿主)として利用し、我が子を育てさせ
ます。
また、ホトトギスの雛は生まれてすぐに巣の中のウグイスの卵を背中に乗せ、本能からな
のか、容赦なく巣から放り出し捨ててしまいます。
可哀想に、ウグイスは自分の体の2倍の大きさにも成長するホトトギスを育てることになり
ます。
見かけによらず狡猾であることと、肉食性で特に毛虫を好んで食べること、何か思いつめ
たような鳴き声が背後の物語を想像させ、文学の世界によく登場するのでしょうね。
◎ホトトギスと正岡子規
正岡子規は日本に野球がやってきた頃、熱心な選手で捕手をしていました。
その頃の名が「升(のぼる)」であったことにちなんで「野球(のぼーる)」という雅号を用い
ていたこともあります。
「バッター」「ランナー」「フォアボール」「ストレート」「フライボール」などの外来語を「打者」
「走者」「四球」「直球」「飛球」と日本語に最初に訳したのは子規です。
ただし、ベースボールを野球(やきゅう)と訳したのは中馬庚(ちゅうまん かなえ)が始めて
とされています。
子規は
「まり投げて見たき広場や春の草」
と野球に関係のある句も詠んでいます。
しかし22才の時、大喀血に見舞われ、結核を患い、後には脊椎カリエスと闘う運命に陥り
ました。
「鳴いて血を吐くホトトギス」
といわれるように、ホトトギスは口の中が赤く鳴く姿が血を吐いているように見えます。
そこから雅号を子規に。
卯の花に卯年生まれの自分を、子規(ほととぎす)に結核をかけて
「卯の花の散るまで鳴くか子規(ほととぎす)」
と詠んでいます。
雑誌『ホトトギス』は正岡子規の友人である柳原極堂が創刊し、夏目漱石が小説『吾輩は
猫である』、『坊っちゃん』を発表したことでも知られています。
◎ホトトギスと和歌
ホトトギスは古くから和歌に多く詠まれています。
野鳥の中では最も多く詠まれた鳥でしょう。
ここでは歴史上の有名人、三人の和歌をとりあげてみました。
時鳥世に隠れたる忍び音をいつかは聞かん今日も過ぎなば
和泉式部(いずみ しきぶ)
(978年頃-没年不詳)
初声を聞きてののちはほととぎすまつも心の頼もしきかな
西行(さいぎょう)
(1118-1190)
春くれて五月まつ間のほととぎす初音をしのべ深山べの里
五月=さつき、深山=みやま
坂本龍馬(さかもと りょうま)
(1836-1867)
◎ホトトギスと俳句
ホトトギスを詠んだ句も数え切れないほどあります。
その中でも声を詠んだ句が圧倒的に多いです。
あの声でとかげくらふかほととぎす
榎本其角(えのもと きかく)
(1661-1707)
はじめ、母方の榎本姓を名乗っていたがのちに
宝井其角(たからい きかく)と名を改める。
郭公一声夏をさだめけり
郭公=ほととぎす
大島蓼太(おおしま りょうた)
(1718-1787)
谺して山ほととぎすほしいまゝ
谺して=こだまして
杉田久女(すぎた ひさじょ)
(1890-1946)
ほととぎす痛恨つねに頭上より
山口草堂(やまぐち そうどう)
(1898-1985)
ほととぎす叫びをおのが在処とす
橋本多佳子(はしもと たかこ)
(1899-1963)
今回は「ホトトギス」についてのいろいろをお届けしました。
潮騒にしめる忍び音ほととぎす
白井芳雄
最後までお読みいただきありがとうございました。
(株)技術情報センター メルマガ担当 白井芳雄
全体を通じての参考文献:山渓ハンディ図鑑7『日本の野鳥』(山と渓谷社)
真木広造、大西敏一
『決定版 日本の野鳥590』(平凡社)2000年
飯田龍太・稲畑汀子・金子兜太・沢木欣一監修
『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』(講談社)
白井明大・有賀一広
『日本の七十二候を楽しむ−旧暦のある暮らし−』(東邦出版)
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