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  メルマガ 「いいテク・ニュース」 雑記帳 2016年3月24日(Vol.134) 「餅」       ≫雑記帳トップへ



   「餅」


NHK大河ドラマ 真田丸。
 ご覧になっている方はご存知だと思いますが、真田家の旗印は六文銭です。
 その由来は諸説ありますが、決死の覚悟であることを敵はもちろん、味方にも知らしめること
 から「三途の川の渡し賃」として旗印を六文銭にした説が有力です。
 また、同じ戦国大名の黒田官兵衛は、合戦時に敵の矢が飛んできて、懐に入れていた餅に矢が
 刺さり、助かった経験から旗印を餅に変えた説があります。
 餅をモチーフにした家紋は軍師と言われた竹中半兵衛も用いています。
 餅は、保存性の良さから軍用食として重宝され、戦場で家紋を簡単に描ける(黒丸=黒餅)こ
 と、さらには「黒餅」は「石持(こくもち)」と読めることから、武士の所領、いわゆる「石高
 」を増やし、出世に繋がることからよく用いられたようです。

 今回はそんな「餅」についての豆知識をお届けします。

◎餅(もち)の語源
 諸説ありますが、満月を意味する「望月(もちづき)」に由来しているとの説が有力です。
 日本人は古くから、太陽や月を尊崇していたことから、丸いお餅は縁起が良いとされ、丸い形
 は「物事を円満に」という意味から祝いの席やお祭りで多く目にします。
 鏡餅はその象徴で、丸いお餅を二つ重ねることで「かさねがさね」「円満に年を重ねる」とい
 う意味が込められています。
 お餅はおめでたい儀式に用いるのがしきたりで、
 1月7日 人日(じんじつ) 別名「七草の節句」
 3月3日 上巳(じょうし) 別名「桃の節句」
 5月5日 端午(たんご)  別名「菖蒲の節句」
 7月7日 七夕(しちせき) 別名「笹の節句」
 9月9日 重陽(ちょうよう)別名「菊の節句」
 の五節句のちまきや柏餅のほか、十月亥の日の亥子餅など、ハレの日にだけお供えし食べる非
 日常食でした。
 現在では、大まかに「西は丸餅、東は角餅」ですが、戦の多かった時代にのし餅を食べて「相
 手をのしてしまおう!」というゲン担ぎや、早くたくさん作るには丸めるよりは角餅の方が効
 率的なことから角餅が普及したようです。


◎餅に関することわざ・格言
 ○餅は餅屋
 餅は餅屋のついたものが一番美味であることから、何事においても、それぞれの専門家にまか
 せるのが一番良いということのたとえ。また、上手とは言え素人では専門家にかなわないとい
 うことのたとえ。

 ○絵に描いた餅
 どんなに上手に描かれていても、絵に描かれた餅は見るだけで食べられない。
 転じて、実際の役には立たないものや、実現する見込みのないことのたとえ。

 ○棚から牡丹餅
 棚から落ちてきた牡丹餅が、ちょうどあいていた口に落ちておさまる。思いがけない幸運が舞
 い込むことのたとえ。略して「棚ぼた(たなぼた)」ともいう。

 ○餅は冷えてから買え
 「日本永代蔵」(井原西鶴)に載っている話で、二間間口の借家人でありながら千貫目持ち(
 今の相場で100億円相当)と評判になった藤屋市兵衛(藤市)という実在した京都の大金持ちの
 倹約ぶりが描かれていて、現代にもこんな人いそうだなあという内容が含まれています。
 餅屋が持ってきた搗きたての餅代をなかなか払おうとしない主人(藤市)に代わって、番頭が
 計量して払ったところ、もっと後から計れば安く済んだものをと番頭を「この家に奉公する値
 打もない」と叱り飛ばします。
 なるほど、搗きたての餅は水分が蒸発するのが早く、時間がたつほど軽くなる。番頭はそれを
 言われてあっけに取られたという。
 一見どけちとも見られますが、何事も目の付けどころが大事ということ。

 ○魚は殿様に焼かせよ、餅は乞食に焼かせよ
 魚を焼くときは、何度もひっくり返すと身が崩れるため、弱火でじっくりと焼いた方がよいか
 ら、殿様のようにおっとりした人に焼かせるのが良い。
 餅を焼くときは、たえずひっくり返して焦げないようにしなければならないため、乞食のよう
 にがつがつした人に焼かせるのが良いという意味。
 また、仕事には適不適があるものだから、仕事をさせるときには適任者を選べということ。


◎戦国武将の藤堂高虎は若き日の無銭飲食を許してくれた餅屋の主人の恩を忘れまいと旗印に白
い餅を描いたが、そこには「城持ち(しろもち)」の意味が。

 「忠臣不事二君」(忠臣は二君に事(つか)えず)。
 武士道の道徳観念かと思っていましたが、戦国時代の武士道にはそうした儒教的な厳格さや形
 式性はなかったようです。
 「戦疵(いくさきず)が百になるまでに大名になる」
 「七度主君を変えねば武士とは言えぬ」
 という言葉を残した藤堂高虎は、何度も主君を変えた人物として有名です。そのため、変節漢
 とか無節操とかの悪評がつきまといます。
 しかし、それは戦国武士道においては働きに見合う恩賞もなく、主君にそれだけの器量がない
 とみれば、仕える主家を替えるのは当然で、時には主殺しさえある下剋上の時代でした。
 高虎は主君を何人も替えましたが、裏切りや寝返りは一度もしていません。
 そんな高虎が17才で浅井家を出奔した時のエピソードを紹介します。

 元亀三年(1573年)、浅井家を出奔した高虎は、新たな主君を求めて東へ東へと逃亡するうち
 に銭は底をつき、食う物すら買えなくなります。
 フラフラになりながら三河国吉田宿(現:豊橋市)に着いた高虎は、うまそうな匂いに誘われ
 、銭もないのに餅屋に入り、20個も平らげてしまいました。
 餅屋の主(あるじ)与左衛門は、高虎が同郷の近江出身だと知り、「東など向かわずに、故郷
 の近江に帰り親孝行をしなさい。」と言って餅代を請求しないばかりか、高虎の手に銭を握ら
 せてくれたのでした。
 その後、高虎は「戦疵(いくさきず)が百になるまでに大名になる」との言葉通りに津藩三十
 二万石のお殿様に。
 大名行列を仕立てて吉田宿を通りかかり、餅屋の主人、与左衛門に金をたくさん授け、お供の
 者たちに餅の大盤振る舞いで恩返しをしたとのことです。
 そんな高虎の旗印は白餅(しろもち)=城持ちでした。
 裏切り、寝返りが常の戦国時代において、実は義理堅かった藤堂高虎のエピソードです。


◎古典落語の演目の一つに『尻餅』があり、『笑点』の司会でお馴染みの桂歌丸が海外公演する
際によく演じられます。
「餅つき」という内容から、年末に演じられることの多い作品です。

 以下はその「あらすじ」です。お楽しみ下さい。

 大晦日だというのに、八五郎の家では夫婦喧嘩の真っ最中。
 隣近所では餅つきの音もにぎやかに、正月の支度をしているというのに、八五郎の家では、貧
 乏所帯ゆえに餅もつけない。
 「長屋の手前、餅つきの音だけでも聞かせてほしいんだよ」
 「っていわれてもなぁ・・・。ん?」

 自棄(やけ)になった八五郎の頭に、とんでもない妙案がひらめいた。
 「何とかしてやろうじゃないの。その代わり・・・何をやっても文句を言うなよ」
 夜になって・・・八五郎、子供が寝たのを見計らい・・・そっと外に出て・・・
 聞えよがしに大声で・・・。
 「『ォホン。え〜餅屋でございます・・・八五郎さんのお宅は・・・ここですな!』」
 ご近所を意識して、芝居の効果音よろしく、餅屋が来たところから餅をつく場面にいたるまで
 、すべて【音】だけで再現しようというのだ。

 「家にあがって、この家の主(あるじ)になって『オ〜餅屋さん、ご苦労様』 
 餅屋に戻って『ご祝儀ですか。え〜親方・・・毎度ありがとうございます』・・・」
 子供にお世辞を言ったりする場面まで、一人二役の大奮闘。
 「餅屋になって『そろそろお餅をつきますので・・・』」
 「おっかあ、臼を出せ」
 「そんなもの、うちにないわよ」
 「お前の尻だよ、お尻を出せ!」
 かみさんのお尻をぴっぱたけば、ペタペタ音がして餅をついてついている様に聞こえる・・・
 それが八五郎のアイディアなのだ。

 「餅屋になって『臼をここへ据えて・・・始めます』・・・」
 「白い尻だなァ」
 「あんた!何を言ってるんだい」
 嫌がるおかみさんに着物をまくらせ、手に水をつけて、尻をペッタン、ペッタン・・・
 「コラショ、ヨイショ・・・そらヨイヨイヨイ! アラヨ、コラヨ・・・」

 そのうち、かみさんの尻はまっ赤に・・・。
 「『そろそろつき上がったようだ・・・それッ、こっちへ空けるよ』」
 「ひと臼ついたつもり・・・。」
 「と・・・次は二臼目だ」
 たまりかねたおかみさんが、
 「餅屋さん・・・あと幾臼あるの?」
 「『へェ、あと二臼でしょうか』」
 「おまえさん、餅屋さんに頼んで、あとの二臼は・・・おこわにしてもらっとくれ」


◎餅と俳句
餅と言えばお正月の雑煮を思い浮べ、新年の付き物のように思われていますが、元々は祝い事や
豊作を神に感謝するための供え物として、お正月ばかりでなく、節句や祝い事などの年中行事、
祭りにも作られました。
ここでは季節毎に「餅」で詠まれた句を挙げてみました。

 〈新年〉
 鏡餅(かがみもち)
   ふくよかにすわりめでたし鏡餅
   村上鬼城(むらかみ きじょう)(1865-1938) 

 〈新年〉
 餅花(もちばな)
   餅花のさきの折鶴ふと廻る(廻る=まわる)
   篠原 梵(しのはら ぼん)(1910-1975)

 〈仲春〉
 草餅(くさもち)
   おらが世やそこらの草も餅になる
   小林一茶(こばやし いっさ)(1763-1828)

 〈晩春〉
 桜餅(さくらもち)
   さくら餅うちかさなりてふくよかに
   日野草城(ひの そうじょう)(1901-1956)

 〈初夏〉
 柏餅(かしわもち)
   太郎とは男のよき名柏餅
   長谷川 櫂(はせがわ かい)(1954-)

 〈晩秋〉
 橡餅(とちもち)
   橡餅を搗く伝来の臼出して(搗く=つく)
   里川水章(さとかわ すいしょう)(1927-)

 〈初冬〉
 亥の子餅(いのこもち)
   山茶花の紅つきまぜよ亥の子餅(山茶花=さざんか)
   杉田久女(すぎた ひさじょ)(1890-1946)

 〈暮〉
 餅搗(もちつき),餅の音
   有明も三十日に近し餅の音(三十日=みそか)
   松尾芭蕉(まつお ばしょう)(1644-1694)

  私も詠んでみました。
 <初春>
 蕨餅(わらび餅)
 夏の季語かと思っていましたが意外にも初春でした。

 わらび餅加茂のさざ波きらきらと
   白井芳雄

今回は「餅」についてのいろいろをお届けしました。

全体を通じての参考文献、出典:『大辞林(第二版)』(三省堂)

               『日本大百科全書』(小学館)
 
                          『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』(講談社)
                (飯田龍太・稲畑汀子・金子兜太・沢木欣一監修)

                          『角川俳句大歳時記 春・夏・秋・冬』

                           白井明大・有賀一広
                          『日本の七十二候を楽しむ−旧暦のある暮らし−』(東邦出版)

                古川瑞昌
                             『餅博物誌』『日本の食文化体系第19巻』(東京書房社)
             
                楠戸義昭
               『戦国武将名言録』(PHP研究所)

           参考サイト:フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)

                故事ことわざ辞典
                (http://kotowaza-allguide.com/)

                全国餅工業協同組合・100%お餅ミュージアム
                (http://www.omochi100.jp/)(もち製造者団体のWebサイト)

                餅学のすすめ
                (http://www.echna.ne.jp/~hanasho/mochi/)

最後までお読みいただきありがとうございました。
   
                   (株)技術情報センター メルマガ担当 白井芳雄

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