メルマガ 「いいテク・ニュース」 雑記帳 2016年5月26日(Vol.135) 「塩」 ≫雑記帳トップへ
「塩」
現在では減塩することが健康・長寿の秘訣とされ、減塩レシピがもてはやされています。
しかし、15世紀半ばから17世紀半ばまで続いた、ヨーロッパ人によるアフリカ・アジア・アメリ
カ大陸への「大航海時代」までは塩は貴重品でした。
大航海時代の探検家たちはその時代の万能薬とも言われた「塩」を競って求め、未知の大陸へと
船出したのです。
○「敵に塩を贈る」のことわざで有名な上杉謙信と武田信玄の物語。
○松の廊下の刃傷事件の背景には浅野家と吉良家の製塩技術の争奪戦があった。
○米国の南北戦争では、塩の流入を止められた南軍は食糧の腐敗による空腹に苦しめられた。
等々、「人」と「塩」には長いつきあいがあります。
今回はそんな「塩」についてのおもしろ豆知識をお届けします。
◎塩にまつわる言葉、ことわざ
塩にまつわる故事やことわざは多くありますが、ここでは興味深いいくつかを取りあげてみま
した。
○地の塩
新約聖書の教えの一つで、塩が食物が腐るのを防ぐことから、道徳や行いの優れた、社会の
規範となるべき人々。また少数派であっても批判的精神を持って生きる人をたとえていいま
す。
○手塩にかける
自分の手で塩をふり、時間をかけて漬け込む漬物や、掌いっぱいに塩をつけて握るおむすび
のように、手に塩をつけて丹念にものを作る行為には、愛情が込められていること。
○塩も味噌もたくさんな人
塩や味噌は日本人の食生活にとってなくてはならない大切なものであることから、なくては
ならない物を充実して持っている確実な人を表す言葉。
ヨーロッパにも似たことわざに「塩の豊かな人」があり、この場合もすぐれた人、教養のあ
る人を表現する時に用いられます。
○ねずみが塩を引く ねずみが塩を嘗(な)める
ねずみが一度に持っていく塩の量はわずかだが、度重なると大量になることから、些細なこ
とでも何回も繰り返すと大変なことになるということ。また、大量にあったものが少しずつ
減っていって最後にはなくなってしまうことのたとえ。
○塩梅(あんばい)
宋の時代の成書に「塩多ければ鹹(かん)、梅多ければ酸、両者半ばすれば塩梅なり」とい
う一節があり、物事のほどあい、かげん、調和を表します。
◎「しおらしい」の語源
「しおらしい」といえば、控え目で、慎み深く、かわいらしい様子を思い浮かべますがその語
源は...。
昔は塩が貴重で、しかも山間の百姓家では十分な塩は手に入りませんでした。
そこで女たちは戦のために出陣する兵士が持っていた「塩包み」に目をつけて言い寄り、身体
と引き換えに塩を手に入れようとしました。その仕草が恥ずかしそうで、塩欲しさの素人の言
い寄りと見破られていました。
そのことから、女たちの目的は「塩が欲しいらしい」から「しおらしい」に転じてできた言葉
だとされています。
◎サラリーマンのサラリーの語源は塩
サラリーマンの「サラリー(salary)」は、古代ローマ時代の兵士に与えられた「塩」を意味
するラテン語「サラリウム(salarium)」に由来しています。
当時、塩は貴重な物であったため、給料として支払われていました。
それが、塩を買うために兵士に与えられたお金を指すようになり、後に、兵士に限らず一般の
俸給や給料を言い表わすようになりました。
ちなみにサラリーマンという言葉が使われはじめたのは大正時代ころからで、英語「salaried
man」からの和製英語とされています。
◎サラダの語源も塩
「サラダ」の語源も調味料の「塩」を意味するラテン語「サル(sal)」、または「塩を加える
」を意味する「サラーレ(salare)」からきています。
古代ギリシャ、ローマの時代にはすでに生野菜に塩をかけて食す習慣があり、当時のサラダが
腸の働きを整える薬効を持つ食材として捉えられていました。
ローマの初代皇帝アウグストゥスは、病気にかかった際、レタスを食べて一命をとりとめたと
いう逸話も残されています。
「サラダ」は本来、塩で調理したものという意味ですが、いつしか「サラダ」という料理その
ものを指すようになりました。
◎塩が足らん=ハンガリー語で「シオタラン」
世界三大難語の一つであるハンガリー語。
日本で使われている言葉で代表的なものは「パプリカ」。
最近、江崎グリコが赤パプリカに含まれ、体の酸化を防ぎ、持久力を高める効果がある成分「
キサントフィル」をオイル状で抽出することに成功し、ダイエットサプリメントやスポーツサ
プリメントとして発売されるそうです。
さて、シオタランのお話しにもどりますが、塩のことをハンガリー語で「so(ショー)」足り
ないことを「talan(タラン)」といいます。
ハンガリー語のアクセントは単語の頭につきますから、「sótalan」=「塩足らん」で、発音は
「ショータラン」に近いそうですが、日本語の感覚で「シオタラン」と言っても通じるようで
す。
しかし、ハンガリー料理はパプリカ料理が多く、味付けも濃いものが多いので、「シオタラン
」は実際の食事の時には、なかなか使うことが出来なさそうなのが残念です。
◎塩と俳句
塩そのものは単独では季語になりません。
他の季語と組み合わせて詠まれています。
ここでは季節順に「塩+季語」で詠まれた句を選んでみました。
<春>
勇気こそ地の塩なれや梅真白
中村草田男(なかむら くさたお)(1901-1983)
季語「梅」で春
<春>
吹き荒れて春体内の泥や塩
森田緑郎(もりた ろくろう)(1932-)
<夏>
子の皿に塩ふる音もみどりの夜
飯田龍太(いいだ りゅうた)(1920-2007)
季語「みどり」で夏
<夏>
塩鯖の泳ぐ日向だ、君にやる
坪内稔典(つぼうち ねんてん)(1944-)
季語「鯖」で夏
<秋>
一ト塩の鰯焼きけり十三夜
野村喜舟(のむら きしゅう)(1886-1983)
季語「十三夜」で秋
<秋>
アンデスの塩ふつて焼く秋刀魚かな
小豆澤裕子(あずきざわ ゆうこ)(1957-)
季語「秋刀魚」で秋
<冬>
塩鱈や旅はるばるのよごれ面(塩鱈=しほだら)(よごれ面=よごれづら)
炭 太祇(たん たいぎ)(1709-1771)
季語「塩鱈」で冬
<冬>
我が体梃子に塩鰤ぶち切れり(梃子=てこ)(塩鰤=しおぶり)
石田智子(いしだ ともこ)(1977-)
季語「塩鰤」で冬
人々の食をはぐくんできた「塩」
俳句の中でも人とのつきあいの長さを感じさせてくれます。
私も詠んでみました。
<春>
塩されてここはどこだと上り鮎(上り鮎=のぼりあゆ)
白井芳雄
季語「上り鮎」で晩春
今回は「塩」についてのいろいろをお届けしました。
全体を通じての参考文献、出典: マーク・カーランスキー
『「塩」の世界史−歴史を動かした、小さな粒』(扶桑社)
『大辞林(第二版)』(三省堂)
『成語林』(旺文社)
『カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版』(講談社)
(飯田龍太・稲畑汀子・金子兜太・沢木欣一監修)
『角川俳句大歳時記 春・夏・秋・冬』
白井明大・有賀一広
『日本の七十二候を楽しむ−旧暦のある暮らし−』(東邦出版)
参考サイト:フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)
故事ことわざ辞典
(http://kotowaza-allguide.com/)
公益財団法人塩事業センター
(http://www.shiojigyo.com/)
最後までお読みいただきありがとうございました。
(株)技術情報センター メルマガ担当 白井芳雄
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